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第一部 始まりの物語
第八十四話 これはその『始まりの物語』だ 【第一部 完】
しおりを挟む「あっ、みなさん出てきましたよ」
気付いたディアが声を上げ、つられて宿屋のほうに顔を向ける。そこには確かにサムソン達三人が入口から姿を見せるところだった。
「そんじゃ、ま、最後の挨拶にでも行くか」
腰を上げると、隣にいたディアもベンチを立つ。二人してサムソン達のほうへと歩き始めた時、向こうでも気付いたらしい、エイラが腕を大きく広げて、
「シャイナあー、お待たせーっ」
笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。だけでなく、エイラは途中で地面を蹴って、ダイブしようとしてくる。
身を捻ってそれを避けた。身体に突撃し損ねたエイラが、地面にヘッドスライディングをかました。
「いったーいっ! ひどいよ、シャイナっ!」
「いきなり突っ込んでくるほうが悪い」
「わたしはシャイナになら突っ込まれたいけどねーっ!」
「やかましい! 変態発言してねえで、さっさとその鼻血を治せ」
「んもーっ。相変わらずシャイナは照れ屋なんだからなー」
ごちゃごちゃとエイラが言うが、一々対応すると面倒なので無視する。
向こうからサムソンとトウカもやってきて、トウカは溜め息をつきながら。
「やれやれ。相変わらずはエイラもだろう?」
そんな愚痴をこぼしていた。
サムソンが真面目な顔で言ってくる。
「シャイナ。トウカとエイラの三人で話し合ったんだが、僕達『勇気ある者達の集い』はパーティーを解散することにした」
「なに……っ⁉」
唐突な言葉に驚いていると、補足するようにトウカも口を開いて。
「解散とは言っても、一時的にだよ。一度解散して、来年の今日、またパーティーを再編成しようってことにしたんだ」
「……どういうことだ?」
鼻血を治したエイラも、立ち上がって服についた砂埃を払ってから。
「ヨナさんと戦っている時に聞かされたんだけどね、わたし達、フリートの部下の一人に操られていたんだよね?」
「…………」
ヨナの奴、余計なことを。
「わたし達がそうなったのは、わたし達の実力と心がまだまだ弱いから……だから、一度パーティーを解散して、それぞれが実力と心を鍛え直して、一年後にまた会おうってことにしたんだ」
「…………そう、か……」
サムソンが言ってくる。
「僕は帝都の騎士団に身を寄せることにした。リダエル騎士団長に誘いを受けてね、騎士団が持つ剣技を学ばせてもらえる代わりに、僕が持つ剣技も教えてほしいとのことだった。良い機会だから、承諾した」
「…………」
「騎士団が僕の剣技を知っていた理由が、シャイナが真似して使っていたからについては、この際何も言わないでおくことにする」
「あー……」
返答に困って、曖昧な声を出す。いや、ここは無闇に返事をしないほうが正解かもしれない。
続けて、トウカが言ってくる。
「あたしは故郷の東の国に帰ることにしたよ。そこで一から鍛え直すことにしたんだ。あたしの気功を鍛えるなら、それが一番だからね」
「そうか……」
「一年後が楽しみだよ。君を瞬殺出来るくらい強くなっているからな」
「そりゃ怖えーな」
「あはは」
最後にエイラが言って……こなかった。
ん? と思って言葉を促す。
「エイラはどうするんだ? やっぱりどこかで修行するんだろ?」
「え?」
「え?」
え?
エイラはハニカミながら。
「わたしはねー、シャイナと一緒に冒険することにしてるんだよー」
「はあ⁉ なんでだよ⁉」
「なんでって、わたしはヒーラーだからね、誰かを治すことが一番の修行になるんだよ」
……確かに、一理はあるかもしれない。
「だけど、なんで俺と一緒なんだよ? トウカやサムソンでもいいだろ」
「ちっちっちっ、分かってないねえ、シャイナくん」
芝居がかったように人差し指を振るエイラ。
「治療する怪我が大きければ大きいほど、修行になるのは分かるよね?」
「まあ、なんとなく」
「それなら、一ヶ所に留まるより、冒険していて常に大怪我してるシャイナのそばにいるのが、一番、修行の効率がいいんだよ」
「……そう……なのか?」
なんか言いくるめられてる気がして、首を傾げてしまう。
そうしていると、トウカがニヤニヤしながら口を挟んできた。
「まあ、要するに、君が一番いつ死んでもおかしくないくらい危なっかしいってことさ」
「……。なんか、絶妙に小馬鹿にしてないか? それ」
「いや、別にい」
なんかイラッとしたが、まあ我慢しておこう。
と、その時、それまで黙って話を聞いていたディアが言葉を挟んできた。
「シャイナ」
「ん? なんだ、ディア?」
なんか知らんがエイラがびっくりした顔をした。トウカも目を丸くしている。
しかしディアは気にしないように。
「もし良かったら、毎日わたしのギルドに来てくださいね。良いクエストが案内出来るように、いつでもお待ちしていますから」
手を握ってきながら、にこやかにそう言ってきた。
何故だか、エイラが背後で、
「むーっ!」
と頬を膨らませる気配がした。
そのエイラが腕を組んできて、街の入口のほうへと足を向けながら。
「シャイナっ、早く次の冒険に行くよっ!」
「お、おい、ちょっと待てって」
まだ次の目的を決めてねえだろうが!
街の入口までやってきて、最後の別れの挨拶としてサムソンが言ってくる。
「シャイナ。僕は君を追放した身だ。だから、いまさら君に、来年の今日にまたパーティーを組もうなんて言える義理はない」
「……」
「だが、条件なら提示出来る」
「条件?」
「ああ」
サムソンは瞳を鋭くしながら。
「来年の今日、もし君が僕達のパーティーにまた入りたいと言うのなら、その時は僕と再び決闘しよう。君が勝てば加入を許可する。僕が勝ったら、君の加入は認めない。それでいいな」
一方的にそう言うと、返事も聞かずにサムソンは背を向けて帝都への道を歩き始めていった。
トウカが肩をすくめながら口を開く。
「やれやれまったく、相変わらず素直じゃないねえ、サムソンも」
それから背を向けて、東の国へと続く道を歩き始める。背中越しに手を振って。
「じゃあね、しばしのお別れだ。来年に会うのを楽しみにしときなよ」
そう言って去っていった。
二人を見送ったあと、エイラが腕を取ってくる。街の入口にいるディアに振り返りながら。
「それじゃあディアさん、わたし達も魔物の討伐に行ってくるね。ディアさんは安心して待ってていいからね」
「はい。シャイナさんが全部倒してくれますからね。エイラさんの出番はないんじゃないですか?」
「あははー」
「あはは」
冗談を言ったように、にこやかに笑い合う二人。どちらも笑顔なのに怖いと思うのは何故だろうか。
「それじゃあ行こ、シャイナ」
「あ、ああ」
そしてエイラとともに魔物がいる場所への道を歩き出す。
それぞれの道。
それぞれの決断。
それらの道と決断が再び巡り合い、将来において、『勇気ある者達の集い』は人々から『勇者』パーティーとして語り継がれることになる。
これはその『始まりの物語』だ。
【最強のFランク光魔導士、追放される】
【第一部 完】
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