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第一部 始まりの物語

第八十二話 シャイナさん! 行きましょう!

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「あんまり慣れてないんだよな、こういうの。普通に苦手で」


 城内の通路。案内するように先頭を歩くのはウィズで。その後ろにサムソンやエイラ、トウカ達とともに歩いている。


「出来ればバックレたいんだが……やっぱダメだよな?」
「ダメに決まってるだろう。相変わらずアホなことを言ってるな、シャイナは」


 こぼした提案をトウカがたしなめてくる。そりゃそうなんだけど、やっぱりあんまり乗り気がしないのは、もはや生まれついての性分なのかもしれない。


「あはは。でもシャイナらしくていいと、わたしは思うけどね」
「……それは褒めてるのか?」
「もちろんだよ」


 無邪気な笑みを向けてくるエイラ。その笑顔に裏はないことは分かっているが、なんとなく釈然としない気持ちにもなる。いったい、普段からどう思われているんだ? と。


「……嫌ならバックレるなりなんなりすればいい。僕は一向に構わない」
「…………」「「サムソン!」」


 仏頂面で推奨してきたのはサムソンだ。やれるもんなら、やってみろと言わんばかりに。まあ、こいつの場合は、たとえバックレようが、しなかろうが、どっちみち文句を言ってくるだろうけど。本当に面倒くさい奴だと思う。
 会話を聞いていたウィズが、小さなため息を吐いた。


「君達は相変わらず仲が良いのか悪いのか分からないな。思ったことをそのまま言えるというのは、心を許している間柄だと言えないこともないのだろうが」


 好意的に解釈するとそうなるのだろうか? サムソンは嫌そうな顔をするだろうが、というか、いま実際に眉をひそめているが。


「まあ、それはともかく。もうすぐ謁見の間だ。事前に説明したように、勲章授与の式典はそこでおこなわれる。くれぐれも失礼のないようにな」
「分かっています」「「はい」」「…………」


 一人だけ無言でいると、ウィズが念を押すように見てきた。


「……大丈夫だろうな、シャイナ?」
「……わざわざ聞いてくるなよ。分かってるから」
「……。なら良いのだが」
「…………」


 なんで心配そうなんだよ。と思っていると、トウカもからかうように。


「やれやれ、シャイナは分かっているようで、その実、全然分かっていないことが度々あるからな。エイラのこととか、その他いままで出会ってきた多くの女性陣のこととか」
「はあ……? なんでいままで会ってきた奴らの話になるんだよ」
「ほらね。全然分かってない」


 トウカの言葉にエイラも「…………」と無言を通す。トウカは肩に手を置いてくると、笑いながら続けて。


「まあ安心したまえ。シャイナが無礼を働いて処刑されようが、多くの女性に命を狙われようが、骸はちゃんと弔ってやるから」
「死ぬこと前提かよっ!」


 何故だかエイラも身を乗り出すようにして。


「あ、安心してシャイナっ。シャイナはわたしが守るし、大怪我しても誠心誠意看護するからっ」
「いや、回復魔法で治してくれれば……」
「それでわたしの優しさに惚れて、そのまま結婚までゴールインすれば……ぐへへ、たまりませんなあ……!」


 ダメだ、変態モードのエイラだ。


「おい、俺よりこいつのほうが無礼を働きそうだぞ」
「…………。いまだけ、あたしも少し心配になってきた」


 さすがのトウカもそうなったらしい。
 そんなバカ話をしていると、ごほんっ、とウィズが咳払いをした。


「謁見の間に到着した。頼むから、ちゃんとしていてくれよ」
「「「「……はい」」」」


 今度は全員、真面目にうなずいた。

 
 勲章授与の式典。
 フリート達との戦いでは多くの者達が奮戦し、その全員が称賛されるべき活躍をしている。そしてその中でも特に目を見はる活躍をした者に、皇帝自ら勲章を授与するという、栄誉ある行事とのこと。
 それに選ばれたのは、『勇気ある者達の集い』のメンバーだった。
 ……まあ、厳密には『勇気ある者達の集い』の三人プラス一人、だが。


「その方ら、前へ来るがよい」
「「「「はっ」」」」


 玉座の前に立つ皇帝に呼ばれ、四人揃って皇帝の前へと歩み出て、豪奢なカーペットに片膝をつく。
 フリート及びその幹部三人と戦い、見事撃退した功績。さらには、魔法が一種類消滅するという事象に陥ったとはいえ、フリートをほぼ完全に無力化し、帝国の危機を救った偉業。
 それらを称えて、サムソン、トウカ、エイラと、皇帝は勲章を授与していく。
 そして最後に皇帝は目の前に来ると。


「シャイナよ」
「はっ」


 片膝をつき、垂れるこうべに声が降る。


「此度の戦いにおいて、そなたの果たした役割は非常に重要であった。そなたがいなければ、私達はいまここにいないであろう。心より感謝致す」
「はっ、身に余る光栄でございます」
「して、そんな我が国の英雄であるそなたに対して、勲章を授与するだけというのは、実に忍びないとは言えないだろうか」
「…………え?」


 思わず顔を上げてしまう。ウィズやリダエル達から聞いた段取りでは、きらびやかな勲章を受け取って終わりだったはずだ。
 見上げる皇帝の顔には、抱いていたお堅いイメージにそぐわない、悪戯っぽい微笑が浮かんでいた。


「実は我が娘は妙齢にもかかわらず、私と妻が用意する見合い話をことごとく断っていてな。なんでも自分にはもっと相応しい殿方がいるはずだと思っているらしい」


 おいおい……まさか……。


「そこで帝国を救ったお主を、我が娘の婿にしようと思うのだが、どうであろうか? 娘も、英雄であるお主なら文句はないだろう」
「…………⁉」


 言いやがったこの皇帝!
 突然のその言葉に、式典に参加していた全員が驚愕し、どよめきの声が波紋のように広がっていく。皇帝のそばで勲章の入った箱を携えていた、当の皇帝の娘もまた。


「お父様⁉」


 と驚きと困惑の入り交じった声を上げていた。
 しかし皇帝は周囲のそんな反応を一切気にしない様子で。


「どうかな、シャイナよ。我が娘は多少気が強いところはあるが、器量は良い。お主がその首を縦に振れば、お主は今日から我が息子も同然だ」
「…………」
「して、返事を聞こうか」
「…………、私は……」


 口を開いた時、後方にいた人々の間から、何かに驚いた大きな声が上がった。


「ええっ⁉ 街の近くにレッドドラゴンが現れて、討伐出来る人を探している⁉」


 振り返ると、ディアさんだった。彼女は通信魔法具らしい腕輪を耳の近くに持っていっていて。


「分かりました!」


 こちらに顔を向けると。


「シャイナさん! 行きましょう! 転移の指輪は持ってますよね⁉」
「え、あ、ああ……」
「それじゃあ、早く!」


 人混みをかき分けて駆け寄ってくると、腕を取ってきて。


「早く! 詳しい場所は案内しますので!」
「……、ああ!」


 慌てて指輪に魔力を込めて、周囲に淡い光が放出されていく。もうすぐで転移しようとした寸前に。


「待って、わたしも!」
「面白そうだから、あたしも行かせてもらおうかな」
「シャイナにばかり任せてられるか!」


 エイラがもう片方の腕を掴んできて、そのエイラの腕をトウカが掴み、トウカの肩をサムソンが掴む。
 そして数珠つなぎのようにして、身体は転移の光に包まれていった。
 転移が完了する直前、


「わっはっはっはっは!」


 心底おかしそうに笑う皇帝の声が響いていた。



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