79 / 235
第一部 始まりの物語
第七十九話 『光は闇を照らし、討ち払う』
しおりを挟む『まさか貴様が人間を手助けするとはな。どういうつもりだ、光魔』
本心から予想外だったのか、突如として力を貸した光魔に炎魔が言う。相変わらず傲然としたその声には、かすかな糾弾の響きが含まれているような感じがした。
『魔』を統べる存在が人間如きに手を貸すな、というような。無論、俺の気のせいかもしれないが。
『それはこちらのセリフとも言えますね、炎魔。私達『魔』を統べる存在が、人間と魔族のいざこざに介入しているのですから』
返答する光魔の声にも、どこか相手を責めるような響きがあった。しかし当の炎魔は依然、暴王のような傲然さと不遜さで応じる。
『これは介入ではない。ただの懲罰と粛清だ。我に恥をかかせた罪に対してのな』
『相変わらずプライドが高いですね。傲慢とも言いますが』
やれやれと言いたげな、呆れたような声で。
『いずれにしろ、炎魔であるあなたが出てきた以上、私も黙って見ているわけにはいきませんからね。私は私の契約者を守らないと』
『ふん。随分とその人間に肩入れしているようだな』
見くだすように言ったあと、炎魔はクククと笑い声をこぼす。
『よかろう。我の力でその人間を抹殺して、貴様の思惑を潰してやろうか』
炎魔が乗り移っているフリートの両手に漆黒の魔界の炎が燃え上がる。それはいままでのどの火炎魔法よりも強く凶悪で、そこに存在するだけで周囲のものを焼き消してしまいそうなほどだった。
それを証明するかのように、空気の流れが奴へと向かっていく。これは……奴の魔炎によって周りの空気が燃やされていて、焼滅したそのスペースに新たな空気が流れ込んでいるんだ。
そしてその魔炎の火力が上昇しているのだろう、空気の流動は徐々に勢いを増していっている。
『どうやら本気を出すつもりのようですね。……シャイナ』
光魔が俺に呼び掛ける。
『いまだけ、あなたに私の力を貸しましょう。それで炎魔を倒し、あの魔族の者を助けるのです』
言うとともに俺の全身が光に包まれていき、まるで空気になったかのような軽さが感じられていく。
『いまのあなたは光と同義の存在です。さあ、その力を存分に奮ってください』
姿の見えない声だけの光魔の瞳が、奴のほうを向いたように感じた。
奴もまたそれに応じるかのように。
『ククク。契約者同士の代理戦争というわけだな。我に刃向かったことを後悔させてやろう』
奴がこちらへと両手をかざし、合わさった魔炎が一段と強く禍々しく燃え上がる。それに伴い、周囲の空気の流れは暴風のような勢いへと変化していた。
『分かっていますね、シャイナ。いくら光となったあなたでも、あの炎に飲まれては生きてはいられないでしょう。ならば、あなたのやるべきことは……』
俺はうなずく。
奴が暴王のような傲然な声で言った。
『この魔炎に脆弱な防壁は効かん。今度こそ、死ぬがいい』
この世のあらゆるものを焼滅させる黒魔の極炎が放たれようとした……その一瞬前に。
俺は文字通りの光の速さで奴の眼前へと迫り、前にかざした右手から眩く光の波動を放つ。それは撃たれる直前だった魔炎とともに、奴の身体を飲み込んでいき……。
『ほう……この魔族を介して威力が落ちているとはいえ、我の炎を凌駕するか。さすがは我と同じ存在なだけはある』
光に飲まれている奴の瞳が、俺の背後にいるであろう光魔へと向けられる。
『だが、所詮は代理戦争。この落とし前は後々つけさせてもらうとしよう。その人間の始末も兼ねてな』
『いいえ。後はありませんよ、炎魔。あなたはいまここで倒させてもらいます』
『……何?』
奴の眉がひそめられる。
光魔が毅然とした声音で言った。
『光は闇を照らし、討ち払う。私の光は姿の見えないもの、存在の稀薄なものさえも飲み込むことが出来ます。……あなたなら、この意味が分かりますね、炎魔』
『……! まさか……⁉』
それまで傲岸不遜だった炎魔の声に、初めて動揺の色が現れる。
『私の契約者の前に安易に現れたこと、それがあなたの敗因です。大人しく無に帰しなさい』
『馬鹿な……ッ⁉ 分かっているのか光魔⁉ 炎魔である我がいなくなるということが……ッ⁉』
『後のことはその時考えます。……言いたいことはそれだけですか?』
最後の足掻きをしようと奴の手に再び黒炎が燃え盛ろうとするが、その刹那、一際大きく輝いた光が奴の身体を完全に飲み込んで、周囲を極白へと塗り替えていく。
『まさかこの我がッ! こんなところでッ! グアアアア……ッ!』
奴の断末魔が響き渡り……そしてそれが消え去ったあと、白一色の世界に光魔の声が降ってきた。
『お疲れ様です、シャイナ。炎魔は倒しました。あなたとあなたの仲間があの炎魔に襲われることはありません、安心してください』
何も見えない光の中、俺は世界を見上げて。
「まさかおまえが助けてくれるなんてな。俺のことを面白がってたおまえが」
『あなたは私の契約者ですからね』
「……とにかく、助かった。ありがとう」
『いえいえ、どういたしまして。ふふふ』
その微笑みを最後に、光魔の存在が消えていくのを感じる。おそらく、また自分が本来いるべきところに帰っていったのだろう。
そして俺の身体を包んでいた光がなくなっていく感覚とともに、周囲の世界も色を取り戻していった。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜
心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】
(大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話)
雷に打たれた俺は異世界に転移した。
目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。
──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ?
──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。
細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。
俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる