【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

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第一部 始まりの物語

第七十四話 では始めるぞ。我輩達の決着の戦いを

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「みんなをどこへやったんだ……⁉ まさか、殺したのか⁉」
「みんなとは、皇帝や騎士団や魔導士団、街の連中のことか?」
「そうだ!」


 叫ぶように言うと、フリートは「ふっ……」と不敵な微笑を漏らした。


「心配する必要はない。奴らなら全員無傷で生きている。いまは別の場所に転移させているだけだ。我輩とおまえの戦いの邪魔にならないようにな」
「……」


 それを聞いて内心安堵するとともに、ある疑問が浮かんでくる。
 やつにとってこの国の人間は生きてようが死んでようがどうでもいい存在のはずだ。それこそ呼吸するように一瞬で殺せてしまえるはずなのに、なぜわざわざ別の場所に転移させてまで生かしているのか。
 訝しむ心持ちが顔に出ていたのだろう、俺を見据えていたやつは、その疑問に答えるように口を開く。


「奴らの生死など我輩にはどうでもよかったのだがな、ヨナが、おまえとの遺恨のない決着を望むなら、殺さない方がいいと言ったのだ」
「……ヨナが……?」
「この国の人間を殺せば、おまえは激昂し、冷静な判断力を失うだろう。それによって限界以上の力を発揮する可能性も少なからずあるが、下手をすれば単調で短絡的で暴力的な行動しか出来なくなり、戦いと呼べるものではなくなってしまうかもしれない」
「……」


 その可能性は充分あり得るだろう。もしも殺されたのがウィズやリダエルやティムやディアさんといった知り合いであれば、なおのこと、俺自身、俺がどういう行動に出るか分からない。


「我輩自身、そのようなつまらない結末を迎えるのは避けたいのでな。だからヨナの忠告を飲んで、あえて殺さずにおいたのだ」


 そこでフリートは溜め息にも似た小さな息を一つついた。


「全く、したたかな女だ。そのように忠告して、見事、この国の奴らの命を引き延ばしたのだから」
「……引き延ばした……?」
「気付かなかったのか? 皇帝の殺害予告状を出した時からいままでに、我輩達による死者らしい死者は一人も出ていない」
「……!」


 そういえば、その通りだ。


「全てあの女がそのように誘導したからだが、それに乗る我輩も我輩だがな。つくづく食えん女だ。もっとも、シャイナ、貴様という存在がいなければ、とうの昔に、少なくとも皇帝は我輩の手で殺していたはずだが」


 俺を見据えるフリートの瞳が鋭さを増す。やつは空間に小さな穴を開くと、そこからなにか小さな小瓶のようなものを取り出した。


「魔力と体力回復のポーションだ。受け取れ」


 こちらへと放り投げてくる。思わず受け取っちまったが……俺は訝しむ目でやつを見据えた。


「……どういうつもりだ?」
「どうもこうもない。貴様とは互いに全力で戦う。疲れ切った貴様に勝ったところで、雪辱を果たしたことにはならんからな。第一、我輩の誇りが許さん」
「……魔物の群れをぶつけてきたり、トリンとゾキと戦わせたやつのセリフとは思えねえな」
「それらはヨナの策略だ。もっとも、トリンに関しては、本当に貴様と戦いたがっていたトリンに乗ったようだがな。そうやってヨナは我輩が有利になるように仕向けたのだ」
「……」


 したたかで食えない女だが、忠誠心はある……ってことか……?
 しかしフリートはどこかおかしそうに、もう一度「ふっ……」と微笑をこぼした。


「あの女は自分とトリンが平穏に暮らせるようにという、その目的の為に我輩を利用しているだけだ。忠誠心などではなく、な」
「……」


 ゾキに殺されそうになっていたトリンを助け出したヨナの姿を思い出す。常に無表情だった彼女に怒りの感情を見た、初めてのときだった。
 ヨナにとって、トリンは大事な存在だということだ。


「だったら、なんでヨナは無闇な殺しを避けたり、俺とおまえの決着をつけさせようとするんだ? 俺を暗殺すれば、それでいいだろ」


 彼女の専門魔法は影魔法だ。暗殺にはうってつけのはず。なのに、なぜしなかったんだ?
 それに、敵である俺を仲間に勧誘してきたり、みんなの命を……ひいてはフリートの目的達成を引き延ばしたり。
 ヨナの目的と実際の行動の間には、どこか矛盾というか、噛み合わないようなズレがある。


「ふん。あの女の考えていることなど、我輩が知るか。分かっているのは、あれはああいうやつだということだ」
「……」


 フリートはそう答えると、俺へと言う。


「こんな不毛な話などしていても仕方ない。さあ、早くそのポーションを飲め。そしてどちらが上か、最後の決着をつけようではないか」
「……」


 俺は自分の手に持つ薬液の入った小瓶に目を落とす。やつの言葉に偽りや騙りなどは感じられない。
 だがしかし……。


「はっ。敵に渡されたものを、はいそうですかって飲むかよ。毒でも入ってたら終わりじゃねえか」


 そのポーションを地面に投げ捨てた。カランと音を立てて小瓶が転がっていくなか、フリートが不敵な笑みを漏らす。


「ふっ……やはり我輩の思った通りだったな。ヨナ、貴様の目論見は外れたようだぞ」
『……仕方ありませんね……』


 これは、通信魔法か……!
 フリートのそばの空間に小さな窓のような光の枠が浮かび、そこからヨナの声が聞こえたかと思うと同時に、俺の身体が淡く暖かな光に包まれていく。


「これは……⁉」
「体力と魔力回復の魔法だ。ヨナは回復魔法も使えるからな」


 フリートの言う通り、魔物の群れやトリンやゾキとの戦いで疲労していた身体が回復していくのが分かる。


『通信魔法か⁉』
『僕達と戦っていてよそ見をする余裕があるのか?』


 トウカとサムソンの声も聞こえてきたが、フリートが通信を切ったらしく、みんなが戦っている音が聞こえなくなる。
 そして俺の疲労が完全に回復されて、淡い光が消えたとき。


「回復は終わったようだな。では始めるぞ。我輩達の決着の戦いを。『フレアフィールド』」


 やつが魔法を唱えた瞬間、周囲が溶岩地帯のような場所に俺たちはいた。



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