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第一部 始まりの物語

第七十話 『サモン』!

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 眼帯野郎が地面に崩れ落ちるのと同時に、サムソンたち三人の身体も地面に膝をついて、ゆっくりと倒れていく。


「みんな……っ⁉」
「心配しなくていいよ。別に殺してないから」


 みんなへと振り返る俺にトリンが言ってくる。


「ゾキがやられた以上、そのうち意識を取り戻すからね。解放してあげたのさ」
「……まるで、本当は操りたくなかったみたいな言い方だな?」
「まあね。人間は出来る限り操らないようにって、ヨナにも言われてるし。それにあの三人なら、意識を取り戻せば、あたしの操作なんか簡単にはね除けちゃうだろうし。さっきの時点でそうだったんだから」


 頭の後ろで両手を組みながら彼女は言う。そこには残念そうな響きも、まがいなりにも仲間をやられたことに対する憤りも見られない。


「こいつを倒したのに、向かってこないんだな?」
「それ、分かってて聞いてない? あたしはそいつが大嫌いで、そいつが倒されても何とも思わないって」


 地面に転がる眼帯野郎を指差しながら聞いた俺に、トリンはこともなげに答える。いままでの二人のやり取りからそうは思っていたが……彼女は本当にこいつを毛嫌いしているらしい。


「むしろシャイナが倒してくれて清々したくらいだし。これで自由に思いっきり出来るってね」
「……分からないな。トリンはなんのためにここに来たんだ? フリートの味方じゃないのか」


 フリートの目的を第一に考えているのなら、眼帯野郎の力は必要になるだろう。たとえそれがどんなに悪趣味な力だとしても。


「もちろんフリート様の目的のことは大事だし、分かってるけど、それと同じくらい、あたしはあたしがやりたいと思ったことを大切にしてるから」


 トリンはウインクをしながら、親指を立てながら人差し指をこちらに向けるポーズをする。
 俺がする、人差し指と中指を伸ばすポーズに似ているそれは、彼女の決めポーズみたいなものなのか……?


「てゆーか、シャイナならあの三人に語りかけなくても、普通にゾキを倒せたんじゃない」


 俺はちらりとみんなのほうを見たあと。


「……信じてただけさ。みんななら、こんなクズの力に屈するわけがないってな」
「……ふーん……」
「それに、トリンに見せたかったんだ。人の心はそう簡単に操れるもんじゃないって」
「…………」


 無言で俺の言葉を受け止めたあと、トリンは眼帯野郎が張った転移禁止の結界の天井を見上げた。


「……ゾキが倒れた以上、この結界ももうじき消えるから。そしたらシャイナ達は帝都に飛べる。フリート様のいる帝都にね」
「……! やっぱり、そうか……! トリンがここに来たのは俺たちを足止めするためだな」
「……あたしがここに来たのは、シャイナと戦いたかったから。ゾキの覗く力でシャイナ達がここにいるのは分かったから」


 俺へと目を向ける。


「そういうことならって、フリート様はあたしをここに向かわせた。ゾキも来させたのは、自分とトリンの力を使えばそいつらを操れるって、ゾキが言って、フリート様が了承したから。まあ、フリート様はあんまり当てにしてないみたいだったというか、信じてないみたいだったけど」
「……」
「フリート様は、仮にも自分に勝ったシャイナが、ゾキなんかに操れるわけがないって思ってたみたい」
「……嬉しくねえな、やつにそう思われても」
「あはは」


 複雑な気分になる。この国や世界を支配しようとしている最大の敵が、ある意味では俺のことを信じていたなんてことは。
 子供らしい笑い声を立てたあと、トリンは真面目な顔に戻って。


「それじゃあ、あたし達の決着もつけようか。さっきはゾキに邪魔されちゃったからね。フリート様が寄越してくれた魔物ももういないし」


 トリンが片腕を空へと高く掲げる。その手のひらに黒色の魔法陣が浮かび上がった。


「『あたしはトリン。縛魔を導く者。あたしの呼び声に応えし者よ、いまここに顕現せよ。『サモン』!』」


 サモン……召喚魔法。
 彼女の魔法陣から何本もの魔力糸が空へと放射状に広がっていく。それはまるで巨大な蜘蛛の巣のようであり……その蜘蛛の巣の中心に、八本の足と八つの目を持つ、一匹の巨大な黒色の蜘蛛がいた。
 人間の一人や二人くらい簡単に飲み込めるだろう口からは鋭い二本の牙を生やし、胴体と八本の足は、触れれば切れてしまいそうな、ごわごわとした体毛によって覆われている。
 不気味で、強力な魔力を宿しているそいつは、八つの瞳を動かしてジロリと俺を見た。


「どう? あたしの自慢のクモちゃん。可愛いでしょ」
「…………」


 彼女の可愛さの感性はよく分からないが……この蜘蛛の使い魔が非常に強大であることは分かる。
 おそらく、ただの魔物じゃない。それ以上のなにかだ。


「この子を召喚するのに残ってた魔力の多くを使い切っちゃったし、この子がいまのあたしの最強魔法でもあるから……実質、これが最後の一撃になるね」


 巨大な蜘蛛が八本の足をわずかばかり縮めて、ジャンプの体勢を取る。あの体躯の一撃を受ければ、間違いなく致命傷になるだろう。
 また毒も持っているかもしれない。やつの攻撃は絶対に受けるわけにはいかない。
 俺は巨大な蜘蛛へと片手をかざす。


「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。我が前に立ちはだかる、強大な敵を退けよ……』」


 トリンが全力で勝負を挑んでくる以上、俺も最強の魔法で迎え撃つべきだろう。
 俺の手のひらの先に、一際大きな輝きを発する魔法陣が浮かび上がる。


「わあお……! この迸る魔力、それがフリート様を破った……!」


 トリンが感嘆の声を出し……巨大な蜘蛛が俺へと目掛けて跳躍してくる。
 鋭い牙と強力な前足を向けて襲いかかってくるそいつに。


「『ミストルテイン』!」


 俺が撃ち放った神殺しの光が、巨大な蜘蛛の体躯を飲み込んでいった。



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