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第一部 始まりの物語

第六十六話 後にしていい? いまはシャイナとの戦いを楽しんでるんだから

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「わあおっ! 凄いねっ! まるで戦う天使みたいだっ!」


 チェーンを裁断し終えて、周囲を舞っていた四枚の光の刃が俺の背中付近に戻ってくる。トリンのセリフはそれを見て言ったものだった。


「それなら、これはどうだ! グラビティーロック!」


 トリンが鈍色の小さな魔法のリングを飛ばしてくる。それもまた斬り伏せようとしたが、リングは光の刃に触れた途端に絞めるようにまとわりついて……急激に刃が重くなる。
 これは……重量付加の拘束魔法か……⁉
 立て続けにトリンがいくつものリングを投げてくる。身体に当たったらやべえ! 俺はすぐに重くなった光の刃を消すと、ぐるぐると回転しているリングをなんとか避けていく。


「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたのっ⁉」


 トリンの声を聞きながら、俺は考えていた。
 数時間前の城での会議のとき、ウィズやリダエルたちは、トリンが操られているのなら解除したいと言っていた。
 しかし、いま実際に戦ってみて感じたことは、トリンに操られているような気配はなさそうということだ。
 理由は分からないものの、彼女は自分の意志でフリートに味方しているように見える。
 ……どうしようか……。
 正直、いくら敵側についているとはいえ、子供を……厳密には年齢が分からないから子供に見える者を……殺すことはしたくない。
 だが、なんとか無力化しないといけないのも確かなわけで……そうなると、殺さずに無力化させるわけだが……。
 はっきり言って、トリンは強い。いまもリングが他の刃に当たって、重くなったそれらを消していっているくらいだ。
 手加減ができるような相手ではない。そんな彼女を殺さずに済ませることなどできるのか……?


「よーしっ、それで最後のピカピカの剣も消したねっ」


 全ての光の刃が消えたのを見て、トリンが嬉しさを含ませた声を上げる。その間もいくつものリングは俺へと飛んできていて、行動範囲を狭めようとしてくる。
 このままだとやべえな……いずれ身体が重くされちまう。
 光の刃なら消すことができるが、身体はそうはいかない。重くなった部分を切断するのも……可能かもしれないが、最後の手段になるだろう。
 取り返しがつかなくなる前に、手を打たねえと。


「ライトボールズ!」


 両手の指と指の間に小さな光の球を計八つ作り、向かってくるリングへと飛ばす。手から離れた光の球は直径数十センチくらいに大きくなると、リングにぶつかって重くなり……そして俺はその光の球を消していき、開いたスペースを駆け抜けていく。


「あちゃー、さすがにすぐに対処法が分かっちゃったかー」


 そう言ってはいるが、トリンのその声に残念そうな響きはあまり含まれていない。俺なら簡単に突破できるだろうとか、当たれば儲け物くらいに思っていたんだろう。
 強いトリンを殺さずに無力化する……かなり難しいことだが、それでもやるしかないな。
 そのための方法を考えねえと……。


「それじゃー、次の魔法は……」


 手をかざしながらトリンがそう言ったとき、


「ククク、その必要はねえぜ、トリン。ククク」


 耳障りな声とともに、俺の頭上に巨大な棍棒が振り下ろされてくる。ミノタウロスの攻撃……! 真横に跳ぶようにすぐさまそれを回避しつつ、光の矢でミノタウロスを撃破する。
 ズシンと地響きを立てながら牛頭の魔物が倒れていき、その向こうに両目にバンダナを巻いた男が見えてくる。そいつは神経を逆撫でするような笑みを滲ませていた。


「こいつらの心は読み切った。あとはおまえが縛魔を使うだけだ」
「…………ふーん……」


 ゾキの言葉にトリンは冷めた返事をする。


「後にしていい? いまはシャイナとの戦いを楽しんでるんだから」
「ククク、そうはいかねえ。分かってんだろ? 俺達がここに来た目的の一つは、敵の戦力を削ぐと同時に利用することだってな」
「…………」
「ククク、そう気持ち悪がるなって。フリート様の命令でもあるんだからな、ククク」
「……そう、だったね」


 おかしい。トリンの態度もだが、ゾキはサムソンと戦っていたはずだし、さっきまで聞こえてきていたトウカとエイラの戦闘音もしなくなっている。
 まさかやられたのか⁉ みんなの様子を確かめるために周囲に首を巡らせたとき、俺の目に、首をうなだれさせるようにして棒立ちになっている三人の姿が映った。


「サムソン⁉ トウカ⁉ エイラ⁉ みんなどうしたんだ⁉」


 大声で呼び掛けるが、反応はない。まるで死体のように……。


「ククク、無駄だぜ。そいつらの心の支配は完了してる。もう廃人同然で、おまえの声に反応することはねえ」
「なんだと……⁉」


 振り返る俺にやつは続ける。


「まさかこいつらレベルの手練れを支配できるなんてなあ、ククク。おまえらの間のトラブルのおかげで、こいつらの心は大分弱ってたぜ、ククク」
「……っ⁉」


 虫酸の走る笑みを浮かべながら、やつは言った。


「俺はゾキ。覗魔導士のゾキだ。覚える必要はねえぜ、どうせおまえの心も廃人同然にするんだからな、ククククク」



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