65 / 235
第一部 始まりの物語
第六十五話 『サテライトブレイズ』
しおりを挟む「まさかこんな方法で近付いてくるとはね、かなりびっくりしたよ」
俺の攻撃態勢に動じることなく、いつになく真面目な調子でトリンは言う。
「っていうか、それで空飛べるなら最初から飛べば良かったじゃん」
「グロウアローは攻撃魔法だ。掴めば怪我するし、最悪、手が吹っ飛ぶリスクがあるんだよ」
現に、僅か数秒だったのにもかかわらず、光の矢を掴んだ手には火傷のような怪我が刻まれていた。
さっきエイラがかけてくれたリジェネレーションで徐々に治癒してはいるものの、ジュクジュクとした鈍痛を感じているし、完全回復にはまだ時間が掛かる。
「だが、これで近付けた。この距離なら、おまえが攻撃してくるよりも速く、俺が先に攻撃できる」
「本当にそう思ってるの? あたしの力が何か分からない癖に」
「糸、だろ。いや魔力で作った、透明なワイヤーっていったところか」
「……!」
トリンが驚きで口を少し開ける。
「おまえの攻撃が、俺が足場にした箱を壊したとき、まるでところてんを作るみてえに裁断したのを見て、分かったんだよ」
光の箱は風切り音に触れた瞬間、無数の角材のように縦に細長く裁断されていた。
つまり、あの風切り音の正体は、無数の魔力ワイヤーの集合体だったんだ。
「俺に傷を付けたときは、エイラの防御強化があったおかげか、おまえがわざと手を抜いたおかげであの程度で済んだがな」
トリンがエイラを攻撃しようとしたとき、エイラをかばうために伸ばした俺の手に傷が付いたのも、そこに透明な魔力ワイヤーが残っていたからだ。
「ネタは割れた。おまえが使うのが魔力ワイヤーなら、それに対抗できる魔法を使うまでだ」
「……ご……」
自分の力の正体を見破られてショックを受けないやつはいないだろう。トリンはうつむいて、肩をぷるぷると震わせていた。
「5……?」
そして小さくつぶやいたその単語に、俺は警戒を強める。
5? なにかのカウントダウンか? 時限式の魔法でも使うつもりなのか?
なにが来ても即座に対応できるように、そう身構えていたら。
「す……ごっーい!」
"す"のあとに溜めを入れて、トリンは両手を上げて飛び跳ねるようにして、全身で喜びを表現するように心の底から楽しそうな声を上げた。
そしてそのまま、ぴょんぴょんとその場で何度も飛び跳ねて、
「すごいすごいすっごーい! ヨナとフリート様以外であたしの力を自力で見破る人間がいるなんて!」
そんな彼女の様子に、あるいはどこまでも無邪気なその仕草に、思わず拍子抜けしそうになって、いかんいかんと再び気を引き締める。
そんな俺のことには気付いたふうもなく、目をキラキラさせながらトリンは俺の名を言った。
「君になら、シャイナにならあたしの全力を出せるかも!」
トリンの全力。つまりいままでは小手調べだったということ。手を抜いてあれだけ強いんだ、全力ならどれほどになるか、想像もできない。
それでも、なんとか無力化するしか……。
このあとの策をどうするか思考を巡らそうとしたとき、トリンが歓喜の舞いをやめて、
「でもその前に、ちゃんと自己紹介しなくちゃね。自分が認めた相手には敬意を払うべきだって、ヨナも言ってたし」
スカートの裾を軽く持ち上げるような素振りの挨拶……いわゆるカーテシーと呼ばれている挨拶をする。
「改めまして、あたしはトリン。縛魔の魔導士だよ。全力のあたしの力、とくとご覧あれ!」
挨拶を終えた彼女の両手首と足元に白色の魔法陣が浮かび上がる。
速い……! 攻撃展開が一瞬出遅れた……!
「それっ!」
その魔法陣が淡く白い光を発したあと、俺へと轟音に近い風切り音が向かってきた。
不可視の魔力ワイヤー。生半可な耐久力を持つものならば容易く裁断してしまう。
またトウカの攻撃を防いだのも、これを自分の全身に張り巡らせていたからだろう。このことから、この魔力ワイヤー自体もかなりの耐久力を持つことが分かる。
だったら、それを超える魔法を使えばいいだけだ。
「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。迫りくる脅威を斬り裂け、ライトブレイド!』」
呪文で強化した光の刃を手に握り、迫る風切り音へと振り抜いていく。二度、三度……。ザザザシュッと、目には見えないが、魔力ワイヤーを確かに斬り伏せた手応えがあった。
「やるねっ! さすがにもう、見えなくすることに魔力を割いても意味ないか!」
どうやら不可視はワイヤー魔法とは別の魔法だったらしい。そしてそれをやめるということは、すなわちその分の魔力が攻撃に回されるということ。
「行くよっ! 『チェーンブリザード』!」
前後左右、上空地面、俺の周囲のあらゆる場所から今度は無数の錆色の魔法陣が展開され、それらから魔力チェーンが飛び出してくる。
おそらくだが、いまのライトブレイドでは対処が難しいだろう。さらに呪文で強化し、なおかつ、この数を処理できるように本数を増やさなくては。
「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり』」
俺を絡め取ろうとしてくる鎖の群れを紙一重で避けつつ、新たな呪文を詠唱する。
「『強靭な鋭さと数多の刃によって、迫る無数の鎖を断ち斬れ、『サテライトブレイズ』』!」
詠唱完了。手に持っていた光の刃がさらに輝度を増し、加えて四振りの光の刃が俺の周囲に現れる。手元のものと合わせて計五振りのその刃によって、無数のチェーンを斬り落としていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
269
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる