63 / 235
第一部 始まりの物語
第六十三話 それって負けフラグっていうんだよー。ヨナが言ってた
しおりを挟む「ありがとっ、トウカ!」
エイラが展開し終えた回復魔法によって、俺の傷が見る間に癒えていく。
「……サンキュ、二人とも。…………」
トリンはまだトウカの気功波から脱出していない……ならばと思い、先程伸ばした腕に傷を付けた空間にもう一度手を伸ばしてみると、再び傷が付くことはなかった。
トリンはいま攻撃を受けているから案の定と言うべきだろう。ただ一つ分かることは、トリンのこの攻撃はその場所や空間に半永続的に作用しているわけじゃなく、あくまでトリン自身の意志によって行使されているということだ。
「おいトリン、遊んでないでさっさと出てきな。あの光魔導士、おまえの力を分析してるぜ。時間を掛け過ぎれば、いずれ看破されちまうかもな」
「えー? それはちょっと困るかもおー。フリート様とヨナに怒られちゃう」
「ククク、俺のことは気にしないのか?」
「それ、聞く意味ある? 分かってるんでしょ?」
「ククク、可愛げのねえクソガキだぜ、ククク」
「お互い様」
そう会話しながら、平然とした顔でトリンはトウカの気功波から歩み出てくる。かすり傷一つどころか、息も全く乱していないその様子に、トウカが信じられないという顔を浮かべた。
「馬鹿な、気功龍昇波が直撃したんだぞ……!」
「きこう……? へえー、もしかしていまのがヨナが前に言ってた、東の国の固有能力? 戦闘や補助全般に使える強くて便利な力って聞いたけど、あんまり大したことないんだね」
「……っ!」
トウカが歯噛みする。あいつの性格はよく知っているし、いまどんなことを思っているかも見当がつく。弱いのはあくまで鍛練の足りない自分であり、気功は決して弱くない、とか、そんなことを。
「へえ、よく分かってんね。まさにその通りさ、ククク」
「黙れ! 眼帯野郎!」
怒鳴りながら、俺はトリンへと駆けていた。みんなにも指示を飛ばす。
「トウカ! チェンジだ! トウカはエイラの護衛に回りつつ、周囲の魔物を片付けてくれ!」
「……っ⁉ だが……っ!」
「トリンに勝ちたいのは分かってる、だがいまは我慢してくれ! あの子の力の正体が分かるまでは!」
「く……っ、分かった……!」
現状、トウカの攻撃はトリンには効いていない。無闇に戦おうとしても、為す術なく返り討ちにされてしまうだろう。
トウカ自身そのことを分かっているから、素直に俺とポジションチェンジして、エイラのそばへと駆けていく。
そして彼女と入れ替わる形で、俺はトリンへと手をかざした。
「おっ、あたしとタイマンする気になったんだ!」
新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、トリンが嬉しそうに言う。その彼女に、
「ライトボール!」
光球を撃ち出しながら、サムソンに叫んだ。
「サムソン! この子は俺が引き受けるから、眼帯野郎を頼む!」
「僕に指図するな。言われるまでもない」
俺が撃ち出した光球をトリンが見えない力で弾くのと同じタイミングで、サムソンが眼帯野郎に斬りかかった。
「おっと、右からの斬撃っと」
それを眼帯野郎は簡単に回避する。
「心を読む、か。なるほど確かに厄介だな」
「ククク、さすがに気付くか。まがいなりにもパーティーリーダーだもんなあ。シャイナには負けたくないもんなあ」
「……。僕を挑発しようとしても無駄だ」
続けざまにサムソンが剣を振り抜くが、それも完全に読まれて回避されてしまう。
「ククク、その割には剣速が遅いようだぜ。ほらほらこんな俺でも簡単に避けられちまう」
「ふん、なら望み通り、もっと速くしてやる」
サムソンの姿が一瞬にして眼帯野郎の前から消える。
瞬身斬。それに、その他の剣技。
「ククク……」
眼帯野郎がサムソンに敢えて本気を出させたのは気になるところだが……。
「ちょっとー! よそ見しないでよー!」
トリンが俺へと手をかざす。
「……く……っ……」
先程の不可視の攻撃をまたされたらたまらない。サムソンと眼帯野郎の戦いは気になるが、いまは俺自身の敵に集中しよう。
それにサムソンのことだ、あの人間離れした剣技を使うあいつがそうそう簡単に負けるわけがない。むしろ心配なんかしたら舌打ちされちまう。
僕を見くびるなよ、とかなんとか言われて。
「あー! 避けちゃダメだってばあー!」
トリンのかざした手の延長線……不可視の攻撃を右に避けると、すぐそばを風切り音が通り過ぎていく。
そう。風切り音だ。この音がするということは、目には見えなくとも実体が存在するということ。その正体がなんなのか、魔法なのか武器なのか固有能力なのかが分からないだけで。
「避けるんなら、こうだ!」
俺が避けた方向へと、トリンがかざした手をくるりとする。その動きに合わせて、俺の側面方向……さっきかわしたはずの不可視攻撃のほうから、追い撃ちをかけるような風切り音が迫ってくる。
「く……っ」
地面を蹴って、今度は後ろ側へと避ける。目の前を風切り音が通り過ぎていき、実際にかすかではあるが空気の流れが鼻先や頬に触れる。
やはり実体があるようだ。そしてこれはトリンの意志で動かせるらしい。
「ねえねえー? さっきから何考えてるのー? あたしの力を分析してるのー?」
自分の攻撃が避けられてばかりなのに、トリンは楽しそうに声をかけてくる。
「それともあっちのゾキと君達のリーダーの戦いが気になるのー?」
あの眼帯野郎の名前はゾキっていうのか。まるで蛇のように追いかけ続けてくる不可視の攻撃を辛うじて避け続ける俺に、トリンはなおも楽しそうに言う。
「もしかしてリーダーなら負ける訳がないって思ってるー? それって負けフラグっていうんだよー。ヨナが言ってた」
「……なにが言いたいんだ?」
「あはっ、喋る余裕はあるんだね。何だか悔しいなあ」
相変わらず楽しそうで、全然悔しがっているようには見えないがな。
「……あの眼帯野郎は確かに心が読めるみたいだが、あんなひょろい身体でサムソンの剣技に対抗できるとは思えないな」
鎌を掛けてみる。ゾキとかいうあの眼帯野郎の情報を滑らせてくれれば儲けもんだ。
「ゾキは確かにウザイけどさー、人の神経を逆撫ですることが趣味の、やっぱり超ウザイ奴だからねー」
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる