【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

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第一部 始まりの物語

第五十九話 フリートの炎魔法を相殺する準備をしておくんだ

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 師匠が話していた当時は、またいつもの説教が始まったと思って、聞き流していたセリフ。それをいまごろになって思い出すとはな……。
 当事者のつもりで考える。相手の立場に立って考える。今回の場合、その相手とはフリートのことを指し示している。
 俺がフリートだったら……帝都を攻め落とすためにどうするか……? なにを考えるか……?


「……帝都の戦力を可能な限り、ゼロに近くする……」
「「……え……?」」


 俺のつぶやきにディアさんとエイラがこちらを見る。サムソンたちも不可解そうな視線を向けてくる。
 ……そうか……。
 なんとなくだが、この戦いにおけるフリートの狙いの見当がついてきた気がした。
 俺はウィズに確かめた。


「ウィズ、西の村の魔物討伐はあと数十分程で終わる……そうだったな?」
「ああ。先程の報告ではその筈だ」
「なら、北と東の連中にも確認を取ってくれ。あとどれくらいで討伐が完了しそうか」
「構わないが……それがどうかしたのか?」
「おそらくだが、三つの町の討伐の時間帯はだいたい同じくらいの時刻になるはずだ」
「……! 分かった。本当にそうなるか、いますぐ確認する」


 俺の言葉になにかしら不穏な雰囲気を察したのだろう。ウィズはブレスレットを通じて、各地の責任者と連絡を取り始めた。
 俺たちの会話の意味をよく飲み込めていないらしいエイラが聞いてくる。


「シャイナ、どういうこと? 三つの町の討伐の時間帯が同じくらいって」
「そのままの意味だ。おそらくフリートたちはそれぞれの町のこちら側の戦力を分析し、その戦力に見合うように魔物の数や強さを調節して、ほとんど同じ時間帯に討伐が完了するように仕組んでいるんだ」


 その説明に、今度はディアさんが疑問を投げ掛けてくる。


「でも、どうしてそんなことをするんですか?」
「三つの町を一度に、同時に急襲するためだ」
「え……?」


 ディアさんが理解が追い付いていない顔をする。エイラもまた頭に疑問符を浮かべていた。
 ふざけたことを言って場を混乱させるなと言いたげに、サムソンが鋭い目を向けてくる。


「何を言っているんだ、シャイナ。町への襲撃なら既におこなわれているだろ」
「言葉が足りなかったな、より正確に言うなら、フリート自身の強力な炎魔法による、上空からの急襲だ」
「なんだと?」


 数時間前、ルナが張った風魔法の結界は、フリートの炎魔法によっていとも簡単に破壊された。


「サムソン、さっき言ってたよな、魔物の討伐が完了するまでは油断するなって。確かにその通りだ。だが、その討伐が完了したとき、実際にその場で戦っていたやつらは、どうしてもその瞬間だけは気がゆるんじまうもんだ」
「……まさか……」


 魔物を打ち倒し、勝利したという喜びや達成感。
 冒険者を始めとして、魔物と戦ったことのあるやつなら、ほとんどのやつが経験する感覚。
 もちろんサムソンたちやウィズも経験しているだろうし、俺自身、経験している。強敵だったり、討伐が困難な場合ほど、その度合いは大きくなる。
 そして、その瞬間こそ、どんな実力者だろうが生じてしまう油断であり、敵にとっては絶好の隙になり得る。


「そのまさかだ。フリートはその隙を突くつもりなんだ。勝利の余韻の最中に足元をすくわれたやつの混乱は、普通のそれよりも大きくなるだろうと予測して」


 感情の振れ幅が大きければ大きいほど、希望や絶望の感覚は大きくなる。
 いまにも死にそうなときに助かれば、その感動や生の実感は凄まじく。また幸福に満ち足りているときに最愛の人物を失えば、全てを憎みたくなり、後追い自殺の衝動に駆られるほどの深い絶望感を味わうことになる。
 要は、それと同じようなことをフリートはしようとしている。
 話を聞いていたトウカが口を挟んできた。


「ならば、それを防ぐ為にも、それぞれの町に結界を張ったほうがいいな。可及的速やかに」
「ああ。だがそれだけだと不充分だ。やつはルナの風の結界をいとも容易く破壊したからな」
「どこかに避難する、ということだな」
「それもある。が、それらと平行して、フリートの炎魔法を相殺する準備をしておくんだ」
「何?」


 トウカが訝しげな顔をする。彼女だけでなく、俺以外のその場にいる全員が不可解だと言いたげな表情を浮かべた。
 各地の戦況を確認し終えたらしいウィズが俺に顔を向けて、言った。


「それぞれの状況を確認したところ、確かにシャイナの言う通り、討伐の時間帯はほとんど同じくらいだということが分かった。……それで、君達の話は耳に入れていたが、フリートの炎魔法を相殺するというのはどういうことだ? やつの攻撃はシャイナと同格以上、はっきり言ってしまえば、いまそれぞれの町に派遣している戦力では、とてもじゃないが真正面から太刀打ちすることなど……」
「それはフリートが"本気"で攻撃してきたらの話だ」
「どういうことだ?」


 みんなにもちゃんと聞こえるように、俺は言った。


「それぞれの町の急襲に、フリートはある程度力を抑える可能性が高い」



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