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第一部 始まりの物語
第五十四話 どうして、みんなにその神殺しの力について話さなかった?
しおりを挟む騎士団の地下に伸びている石造りの薄暗い通路。左右の壁には照明魔法具の小さな明かりが点在し、なんとか足元や視界の先が確認できるほど。
その地下通路を、ランタン型の照明魔法具を持つウィズの案内の元、俺とサムソンは並んで歩いていた。いまいるのはこの三人だけで、他のやつらは会議のあの部屋に残ってフリートたちへの対策を練っている。
「まさか、騎士団の地下にこんなところがあるとはな」
歩きながら俺が口を開くと、前を向いたままウィズが答えてくる。
「これは騎士団の暗部とも言うべき物かもしれないな。騎士団の秩序を乱したり、法を犯した騎士団員をこの先の牢獄に収容して、罰を受けさせる為に作られた物だ。とはいえ、もう数十年もの間、ほとんど使われたことはなかったが」
「それを、あの黒眼球の男を収容するために再利用してるってことか」
「そういうことになる。無論、魔法を封印するための拘束魔法具も使っているがな」
掃除や整備もあまりされずに放置されていたのだろう、ときどき壁や天井から水が滴り落ちていたり、あるいはネズミがチューチューと鳴きながら走り回っていた。
「騎士団だけではなく、魔導士団の地下にも同じ牢獄が存在する」
「……ってことは、もしかして城の地下にもあるんじゃねえのか……?」
「もう秘密にしても仕方ないがな……」
俺の言葉に、ウィズは重々しくうなずいた。もう仕方ない……彼女はそう言ったが、やはりこのことを外部の人間に知られるのは気が重かったのだろう、その表情は少し暗く見えた。
思わず、俺は話題を変えようとして、今度はサムソンに話しかける。
「それはそれとして、サムソン、いい加減話したらどうだ? みんなを部屋に残して、わざわざ俺を連れ出した理由を」
建前としては、黒眼球の男を実際に捕らえ、そしてフリートを追い払った俺が赴けば、そのことにショックを受けた黒眼球の男が口を割るのではないか……そういう理由で、俺は一緒に行くことになったのだが……。
「……話を聞いてなかったのか? 君を同伴させた理由は、フリートに勝った君になら黒眼球の男も観念すると思ったからだ。そうしてフリート達の情報を聞き出す為にね」
「それは表向きの理由じゃねえのか? 仮に俺が来る理由はそれでいいとしても、それにサムソンが同伴する理由はないだろ? おまえは出来る限り俺と一緒に居たくないだろうしな」
「……ふっ……分かってるじゃないか」
つぶやくように言ってから、目を合わせようとはせずに、まっすぐ前を見据えたままサムソンは言ってくる。
「そこまで分かっているのなら、僕が君を連れ出した理由にも見当がついているんじゃないか?」
「…………」
「まあいい。率直に言おう。君はさっき、導く者と司る者の説明の時、話していなかったことがあるな? 厳密には、わざと話さなかった、と言ったほうがいいだろうけど」
「……なんのことだ?」
「とぼけても無駄だ。僕が言っているのは、君が持つ『神殺し』の力……『ミストルテイン』のことだ」
俺たちの話を聞いていたウィズが、少しの驚きと怪訝を混ぜた表情でこちらに目を向けてくる。彼女ほどの実力者なら『神殺し』がどのような意味を持つか分かっているだろうが、それでも口を挟もうとしてこないのは、いまはとりあえず俺の様子を見ようとしているのだろう。
…………。少しの間、沈黙したあと、俺は口を開いた。
「……知ってたのか。ミストルテインが神殺しの力だって」
「あまり僕を見くびるなよ。四元素の使い手として、それらの精霊から神殺しの力については、ある程度は話を聞いている」
精霊。魔の存在とは別に、それぞれの元素を担当する存在だ。昔、師匠が言っていたのを聞き流していたから、詳しいことは俺もよく分からないが。
「神殺しの力は本来、魔の存在が持つ最強クラスの力のはずだ。司る者よりもさらに上位の者、それこそ魔の存在と同位クラスの者でないと扱うことさえ許されないと聞いている。シャイナ、なぜその力を導く者である君が使えるんだ?」
「…………」
そんなこと、俺が聞きたいくらいだ。
「使えるもんは使えるんだから仕方ないだろ。文句なら、この力を勝手に寄越してきたやつに言いやがれ」
「……。それはつまり、光魔の存在、ということか?」
「そいつ以外に誰がいやがるんだよ」
「…………」
光魔の存在。そいつが持っていた神殺しの力……ミストルテイン。元々はなんかの植物を指す言葉だったらしいが、なにをどう間違ったのか、いつの間にか神をも殺す力にまで高まってしまったらしい。
そして光魔に神殺しの力があるのと同じように、他の魔の存在にも、それぞれ最強必殺クラスの力が存在する……らしい。
俺の口振りを疑問に思ったのか、ウィズが問いを挟んでくる。
「シャイナ、君のその言い方だと、まるで神殺しの力を疎んでいるように聞こえるが?」
「……そりゃあ、文句の一つも言いたくなるさ。知ってるだろ? 魔導士以上の魔法の使い手は、その力の度合いによって、他の魔の力を使いにくくなるって」
「……なるほどな」
ウィズは察したらしい。
「光魔の神殺しの力を扱うともなれば、それ以外の魔の力はほとんど使えなくなる……そういうことだな?」
俺は肩をすくめた。
「その神殺し以外の光魔法は魔導士クラスにもかかわらず、にな」
「だが、そう言うが、シャイナの魔法は魔導士クラス以上にも見えるが?」
「それは……」
師匠が言うには、俺の魔力の質と量は一般的なそれらよりも高水準にあるらしい。だから、他人が使えば普通クラスの魔法でも、俺が使うと威力が跳ね上がるらしい。
こんなことを自分の口から言うのは、なんか自慢しているみたいに聞こえるから、あまり言いたくはないんだが……。
そう思って、俺が言い淀んでいると、サムソンが口を挟んできた。
「どうせ、シャイナの魔力が特別とか、そういう理由でしょう。そんなことより、シャイナ、僕の質問にまだ答えてないぞ」
サムソンが再び問いを投げかけてくる。今度は誤魔化すなよと言わんばかりに。
「どうして、みんなにその神殺しの力について話さなかった?」
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