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第一部 始まりの物語

第五十三話 フリートを主と呼ぶ、眼球が黒いあの男です

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 その後も話し合いは続き、俺はついさっき交戦したヨナと、彼女を助けにきたトリンについて説明し始める。またそれらを補足する感じで、ルナもところどころで口を挟む。


「……子供、だと……?」


 トリンのことに触れたとき、ウィズが眉をひそめた。俺も難しい顔をしながらうなずく。


「……ああ……少なくとも、見た感じや言動はそうだった。実際の年齢は分からないから、そう見えただけかもしれないがな」


 実年齢と見た目が合致しないことがあることは、俺の実体験上、往々にして存在することは分かっている。俺の師匠がそうだったからな。まあ、師匠の場合は特例みたいなもんだが。


「子供……子供か……弱ったな……」


 口元に手を当てながらウィズがつぶやく。初めて聞いたかもしれない、彼女がそんな困った様子を見せるのは。
 俺と同じように難しい顔をしていたリダエルがウィズに尋ねた。


「どうする?」
「……私が聞きたいな。騎士団長殿はどうするつもりなんだ?」
「……帝国の騎士団としては、例え悪者の味方をしているとはいえ、子供を手にかけることはできない……何とかして保護し、自らの行いを悔い改めさせたい。フリート一味に洗脳されているのだとすれば、それを解きたいところだ」
「……概ね、私も同意見だ。だが、保護が不可能な場合はどうする……?」
「…………」


 リダエルが押し黙る。ある意味、それが答えかもしれない。どうしても保護が不可能な場合の対処法は……。
 そのとき、……あの……、とおずおずとした感じでディアさんが手を上げた。


「何だ、ディアどの?」


 ウィズの問いにディアが口を開く。


「さっきの魔物の話にも関連するかもしれませんけど……もしかしたら、その子も、向こう側の誰かに操られているという可能性はありませんか? シャイナさんとルナさんの説明では、そのトリンという子の力は、向こう側にとっては必要なものみたいですし……」
「ふむ……なるほど……その可能性もあるか……」


 再び口元に手を当てて思案を巡らせるウィズに、ディアさんは少しだけ慌てた様子で、


「あ、でも、そういう可能性もあるってだけで、もしかしたら違うかも……」
「いや、ありがとう、ディアどのの意見はとても参考になった。まだ可能性の段階ではあるが、もし本当にその子が操られているのであれば、操作者を叩けばいいのだからな。その可能性が出てきただけでも、気は楽になった。リダエルもそうだろう?」


 ウィズに聞かれて、リダエルが力強くうなずく。


「ああ。無論、あくまで可能性の話で、今後の調査は必要だがな。それでも、そのことを指摘してくれたディアどのには礼を言う。ありがとう、気が楽になった」
「きょ、恐縮です……っ」


 帝国の名誉の象徴ともいえる騎士団と魔導士団の両団長にそう言われて、ディアさんは肩を縮こまらせる。べつに悪いことを言ったわけではなく、むしろその逆なのだが、彼女にとっては身に余る出来事らしい。


「とりあえず、これでフリート達に関する情報は大体出揃った感じか?」


 確認するように、ウィズが一同を見回す。リダエルたち騎士団と魔導士団メンバー、サムソンたち、そしてルナがうなずくのを確認したあと……首を縦に振らずに考え込む様子の俺を見て、ウィズが聞いてきた。


「どうした、シャイナ? 何か気掛かりなことがあるのか?」
「あ、いや、ちょっとした疑問があってな……」
「何だ?」
「どうしてトリンはヨナがいる場所が分かったのか? だ」


 ヨナが言っていたが、彼女は独断で俺に会いにきたらしい。だとすれば、他の仲間にはそのことを話していなかった可能性が高い。にもかかわらず、フリートやトリンは彼女の居場所をピンポイントで見つけることができた。それはなぜか?


「ふむ……トリンの未知の力で探知した、ということは?」


 ウィズの指摘に、俺は曖昧に返す。


「その可能性ももちろんあるが……なんか腑に落ちなくてな」
「では、ヨナが何らかの方法で連絡した可能性は?」
「……うーん……」


 それもあるかもしれないが、やはり腑に落ちない。俺との戦いの最中に、仲間と連絡している余裕があったとは思えなかった。
 ウィズが聞いてくる。


「それらの可能性に納得していないということは、他に何かあるのか?」
「……もしかしたら、なんだが、あるいは相手の居場所を特定できるやつが、フリートの仲間にいるんじゃないか、と思ってな」


 ヨナは微弱な魔力を探知して、その形跡を辿ることができる。彼女のその固有能力と同じように、探したいものの現在地をピンポイントで特定できるやつがいる可能性がある……かもしれない。
 俺の考えに、ウィズもまた考え込む。


「なるほどな。フリート一味の全体像が分からない以上、一応、その可能性も考慮しておく必要はあるな」
「俺の思い過ごしかもしれないがな」
「いや、思い過ごしならそれでいいんだ。避けるべきは、そんなことはないだろうと相手の力量を軽んじて、手遅れの事態を招くことだからな」


 そしてもう一度、ウィズは現時点での情報について、報告し忘れたことがないか確認する。今度は俺もうなずいたのを確かめて、


「それでは、これからは、いま出た情報に基づいてフリート達への対策を考えていくが……」


 ウィズが話を進めようとした途中で、サムソンが手を上げた。


「どうした、サムソンどの?」
「いま思い出しましたが、まだ情報源が一つ残っています。いや、一人と言うべきか」
「誰だ?」


 ウィズの問いに、サムソンは答えた。


「昨夜、シャイナが城内で捕らえた男……フリートを主と呼ぶ、眼球が黒いあの男です」



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