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第一部 始まりの物語

第五十話 エイラやトウカや、ひょっとしてディアさんも捜索メンバーに入ってるのか……?

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「それで、どうして俺がこの街にいるって分かったんだ?」


 官憲たちが部屋から出ていってから、俺はもう一度リダエルたちに尋ねる。三人を代表するようにリダエルが答えた。


「別に分かっていた訳じゃない。ウィズの提案で、帝都の近くにある村や町、その全てに人員を派遣しただけだ」


 簡潔ではあるがその説明に俺は納得する。


「なるほどな、いわゆる物量作戦ってわけか。それで、この街を調べに来たのがリダエルたち三人だったってことだな」


 そうそうとエマがうなずく。


「でもこの街に来たらびっくりしたよ、何か孤児院の方で騒ぎがあったって街の人達が話してたからさ。だけどシャイナが見つかって良かった。あたし達が当たりを引いたみたいだね」
「そのような言い方をするな、エマ。皆、切実な思いでシャイナを探しているのだからな」


 軽口のように言ったエマを、リダエルがたしなめる。当たりと外れ……エマは俺を見つけたことを当たりだと表現したが……サムソンにとってはその逆かもしれないな。
 そう思ってサムソンのほうに目を向けると、サムソンは仏頂面で俺のほうを見ていた。やつの鋭い視線とかち合ったが、気にしない素振りで、なにかを言ってくる気配もない。
 そんな俺たちの様子に気が付いたふうでもなく、リダエルが口を開いた。


「積もる話は色々とあるが、それは帝都に戻ってからにしよう。ウィズから転移の魔法具を借りてきている」
「分かった。だがその前に、軽い怪我とはいえ一応ヒーラーに治してもらってる途中だから、それが終わってからでいいか? すぐに済むだろうから」
「了解した」


 俺の返答にリダエルはうなずく。それから、いまだに直立不動のルナのほうを見て、


「もしかして、あなたがシャイナを介抱したというルナさんかな?」
「は、はい! わたしがルナと申します! リダエル騎士団長の武勇はかねがね存じ上げています! この度はお会いできて光栄です!」


 あまりに緊張し過ぎているのか、言葉遣いがちょっと怪しい。そんな彼女の反応にリダエルは苦笑を漏らし、


「変に気を張らなくてもいい。シャイナを助けてくれたのなら、俺達は仲間同士だ」
「はっ! 恐悦至極であります!」


 全然緊張が抜けてない。むしろさらに畏まっている気もする。
 エマもまた苦笑を浮かべた。


「なんか騎士団に配属されたばかりのあたし達を思い出すなー。そうそうこんな感じだったなー、って」
「エマはもっと敬意を払うべきだがな。さすがに砕け過ぎている」
「はっ、以後気を付けます!」


 リダエルの注意にエマが敬礼する……が、リダエルがこちらに向き直ると、悪戯っ子のようにペロッと舌の先を出した。全然反省してないな。
 リダエルがルナに言う。


「という訳で、この後すぐにでも帝都に戻るつもりだが、ルナどのは誰かにそのことを伝えておかなくて大丈夫か? 家族や友人などに」
「はっ、わたしのことなら……」


 答えようとしたルナに、俺も言った。


「一応、孤児院の院長さんたちには伝えといたほうがいいんじゃないか? 怪我も治してもらったから心配する必要はないっていう、報告も兼ねて」
「……そうだな。孤児院も壊れてしまったし……」


 俺たちのその話をリダエルが聞き咎めた。


「孤児院が壊れたというのは、先のフリートの仲間との戦いでか?」
「ああ、そうだ。そうするしかなかったとはいえ、壁の一部がぶっ壊れちまってな」
「そういうことなら、その修理費は騎士団から出そう。なんなら帝都の優秀な建築士に頼んで」
「いいのか?」
「無論だ。シャイナとルナどのは俺たちの仲間で、その仲間が困っているのなら助ける。それが帝国騎士団だ」


 エマが口を挟んだ。


「ウィズさんが聞いたら反論しそうですね。魔導士団もそうするって」
「ははは、違いない」


 リダエルがルナに改めて向き直る。


「だから、ルナどの、そのことに関して心配する必要はないぞ。安心してくれ」
「……ありがとうございます……!」


 心底からの感謝の意を表すために、ルナは頭を下げて、


「ははは、気にする必要はない」


 リダエルは笑い飛ばすように言った。
 それから俺とルナはヒーラーに怪我を治してもらい、そして院長たちに一時的とはいえ別れの挨拶をするためにルナが部屋から出ていく。彼女を見送りながら、俺は思い出したことをリダエルたちに言った。


「そういや、朝九時に馬車の予約をしていたんだった」


 壁の時計を見ると、もうすでに十時を少し過ぎていた。いろいろあったからなあ。


「帝都に戻る前に謝っておかねえと。あとキャンセルの連絡も」


 リダエルたちと転移魔法具で帝都に戻る以上、馬車は使わないからな。リダエルが口を開く。


「それなら、俺たちが乗ってきた馬の所に戻る途中で寄ればいい」
「馬で来たのか」
「いくら近い街とはいえ、徒歩だと時間が掛かりすぎるからな」
「そりゃそうか。で、馬と一緒に帝都に行くわけだな」
「ああ。置いていく訳にはいかんからな」
「ところで、ずっと気になってたんだが、俺を探すためにリダエルが帝都を離れて良かったのか?」


 騎士団長という重要な立場なのに。


「ははは、シャイナが気にする必要はない。それに帝都にはウィズが残ってるからな、連絡係も兼ねて。何かあればすぐに連絡が入るし、その為もあって転移魔法具を借りている」
「なるほどな。……あと、これは聞きにくいことなんだが……」
「なんだ?」


 俺はサムソンのほうをちらりと見る。


「……サムソンが一緒にいるってことは、エイラやトウカや、ひょっとしてディアさんも捜索メンバーに入ってるのか……?」


 半ば分かっていたことではあるが、サムソンは鋭くさせた瞳を和らげないまま、


「そうだ」


 そう答えた。



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