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第一部 始まりの物語
第四十七話 次に会った時は絶対に、ぎったんぎったんのけっちょんけっちょんにしてやるんだから!
しおりを挟む風の結界の天井を突き破って落下してきたなにかによって土煙が舞い上がり、周囲の視界が一時的に悪くなる。いったいなんだ⁉ と、土煙から呼吸器官を守るように口元と鼻の前に腕を上げながら、落下してきたものの正体を確かめようとしていたとき、銀髪の女が土煙の中心へと歩み寄っていくのが見えた。
「フリート様の命で来たのですか、トリン?」
「うん、そだよー。まったく、黙って勝手に行動するの、ヨナの悪い癖だよ。フリート様も文句言ってたし」
「それはすみませんでした。以後、気を付けます」
「前もそんなこと言ってなかった?」
「そうでしたか?」
「そうだよ!」
土煙によって塞がれていた視界が徐々に晴れていき、ヨナと親しげに会話する、幼さの残る女の子のような声の主の姿が見え始めてくる。
見た目は十代前半くらいと相当若く、髪型はショートボブくらいの短さなのだが、その髪の色は黒や金や銀など、まるで虹のように部分ごとに別々の色になっていた。
「フリート様自身がお越しになっていないということは、まだ怪我は完治されていないのですね?」
「昨日の今日だからねー。全部治るにはもうしばらく時間がかかるみたい。……っと、こんなこと話してる場合じゃなかった」
よく見ると、ヨナにトリンと呼ばれていたその虹色の髪の女の子の周囲には、まるで小さな隕石でも降ったあとのような地面の窪みと、わずかに燃え残る火があった。
それらは風の結界を突破した影響でできたのだろうが……『火』という現象から、俺はとっさに思い至る。
「フリートの炎魔法で突き破ってきたのか⁉」
土煙のせいで周りがよく見えていなかったのかは分からないが、虹色の髪の女の子はそのとき初めて気が付いたように、俺のほうに顔を向けた。
「へえー、フリート様のことを知ってるってことは、もしかしてあいつが話に聞いた光魔を導く者?」
「ええ、そうですよ、トリン。彼がシャイナ様です。先程まで私と戦っていたのですが、ちょうど良い時にトリンが来てくれたのです」
トリンの言葉にヨナが応じて、ヨナもこちらに目を向ける。
「シャイナ様、今回の戦いはここまでにしましょう。色々と驚かせて頂き、見聞が広がりました。ありがとうございます」
それからトリンに向いて、
「それでは戻りましょうか、トリン。ちゃんとその為の備えはしているのでしょう?」
「えーっ⁉ せっかく来たんだから、あたしも暴れたいよー! あの光魔の導き手と戦ってみたいーっ! ヨナばっかりずるいーっ!」
「今回は我慢して下さい。トリンが倒されてしまっては元も子もないのですから」
「でもーっ!」
トリンがなおも文句を連ねようとしたとき、彼らの向こう側から、剣を構えたルナが彼らへと迫っていった。
「わざわざ逃がすわけないだろう!」
そして剣を振りかぶったルナがそれを振り下ろそうとしたとき、その剣先がなにもない空中で突如として停止する。
「誰、君? 悪いけど、あたし、弱い奴には興味ないんだよねー」
無邪気な子供っぽくそう言ったトリンが、魔法の杖を使うように人差し指をひらりと振ると、硬直していた剣がなにかに引っ張られるようにして動き出し、
「な、きゃあーっ⁉」
それにつられてルナの身体も結界の壁のほうへと吹き飛ばされてしまう。
「ルナ⁉」
叫んだ俺の片頬を、ヒュンッ! という風切り音とともになにかが高速で通り過ぎ、頬の表面が切れて一筋の血が流れ出す。
「……⁉ いまのは……⁉」
速い……⁉ あまりにも速すぎて視覚で捉えきれなかった。
「おやあー? ね、ね、ヨナ、いまの見た? あいつ、あたしの牽制に全く反応できなかったよ! もしかして、あたしならあいつに勝てるんじゃない⁉」
「……調子に乗ってはいけませんよ、トリン。シャイナ様は神殺しの力でフリート様を破ったお方です。それに私自身、戦ってみて分かりましたが、シャイナ様の逆境を打破する力は目を見張るものがあります。いまここで私達だけで戦うのは得策ではありません」
「えー、でもー」
駄々をこねる子供を諭すように、ヨナがトリンに言う。
「いいですか、トリン。いま、あなたの力を見破られてしまっては、後々の計画に支障を来すかもしれません。それに今回得た情報をフリート様に持ち帰らなくては」
「それはそうだけどー……」
「分かって下さい、トリン。私はともかく、いま、あなたを失う訳にはいかないのです。あなたを失えば、フリート様はきっとお悲しみになります」
「……うー……分かったよー……フリート様を失望させる訳にはいかないもんねー……」
ヨナの説得に、渋々ながらも納得したトリンが俺のほうを見た。
「という訳だから、光魔の導き手、今日の所は見逃してあげる! でも! 次に会った時は絶対に、ぎったんぎったんのけっちょんけっちょんにしてやるんだから!」
それからヨナに、
「それじゃあ、ヨナ、しっかり掴まって。猛スピードでここから離れるから」
「はい、分かりました」
そしてヨナがトリンの華奢な腕に掴まり、
「待て!」
俺の叫びを無視して、二人は風を切るような物凄い速さで空中に飛び上がると、穴の開いた結界の天井から外へと飛び出していった。
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