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第一部 始まりの物語

第四十一話 ヨナと申します……お久しぶりですね

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 スクランブルエッグにクロワッサン、スープ、それとボウルに入ったサラダ、飲み物はミルク。朝食はそんな一般的なもので、キッチンがそばにあるダイニングルームのテーブルに俺たちは座っている。


「いただきます」
「「「「いただきます」」」」


 郷に入らば郷に従え。初老の女性の孤児院長が手を合わせて言い、ルナたち三人と俺も手を合わせる。
 建物がそれなりに広く、孤児院と言っていたから、てっきりもっと多くの子供たちがいるのかと思っていたが、実際には院長、ルナ、ルド、チルの四人だけだった。


「ルナから聞きましたが、シャイナさんは光魔導士をしているそうですね」
「あ、はい」


 食事をしながら院長が聞いてきたので、俺は答える。すると彼女は続けて、


「昨夜の怪我は全快したようですし、安心しました。質素ですが、我が家の朝食を食べて、しっかり英気を養ってください」
「いろいろとありがとうございます。怪我の治療にヒーラーも呼んでくれたみたいですし」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでですから、お気になさらないでください」


 院長が微笑む。その話を聞いていたルドがクロワッサンをもぐもぐさせながら、


「なあなあ、光魔導士ってどんな魔法使えんだ? おれにも教えてくれよ」


 そう言って、それに対してルナがたしなめた。


「こら、ルド、しゃべるときはちゃんとものを飲み込んでからにしなさい」
「はいはい、ルナはうるさいなあ」
「はいは一回だとも言ってるでしょ」
「はーい」
「まったく……」


 ルナがやれやれとする。
 男の子はクロワッサンを飲み込むともう一度聞いてきて、俺は、魔導士は普通の魔法使いとは違って、特殊な段階を踏まないとなれないこと、扱う魔法も努力だけではなく相応の才覚が必要なことを簡単に説明していった。


「ふーん」


 話を聞いていたルドは、思っていたよりも小難しそうなその説明に、なんだか興味が薄れたような、面倒くさそうな返事をした。
 他にもルナや院長ととりとめのない世間話をしつつ、朝食を終えて、


「ごちそうさまでした」
「「「「ごちそうさまでした」」」」


 手を合わせてそう言った直後、外に行ってくる! とルドが席を飛び出して、ちょっと待ってよ! とチルがその後を追っていった。
 それから俺はキッチンのシンクで食器を洗うのを手伝いながら、ルナに尋ねる。


「帝都に連絡をつける方法はあったか?」


 さっきまでは子供たちがいて、真剣な話をするのが憚られていたから触れなかったが。ずっと気になっていたそのことを、カチャカチャと食器を洗う小さな音を立てながら、ルナは答えてくる。


「この街の馬車組合に聞いてみたところ、帝都まで向かう馬車を用意してくれるとのことだ。九時に馬車組合の前に来てほしいと言われた」
「そうか……!」


 壁にかかっている時計に目を向ける。朝八時ちょっと過ぎ。時間までにはかなりの余裕がある。これなら待ち合わせには普通に間に合うだろう。


「この街から帝都まではどのくらいで着くんだ?」


 外に出た子供たちの様子を見るため、院長は彼らに付き添っている。時折、庭に面した窓のほうから、そんな三人の声が聞こえてきていた。
 俺の質問に、ルナはちらりと窓に視線を向けながら言う。


「馬車で三、四時間ほどだ。九時に出るのなら、昼頃には到着するだろう」
「そうか……!」


 おそらく、帝都にいるウィズたちも心配しているだろうし、なにかしらこちらと連絡を取る手段を考えているだろう。
 とにかく、今日の昼頃にはウィズたちと合流できる。思っていたよりもずっと早いそれに、俺はよしっと思う。
 布巾で拭いた食器を置きながら、ルナが言う。


「わたしも同行していいか? Bランクとはいえ、なにかできることはあるはずだ。わたしも力になりたいんだ」
「それは構わないが……」


 俺は窓の外で走り回っているルドを視界に入れながら、


「子供たちや院長のことは大丈夫か? もしここも戦いに巻き込まれたら……」


 ルナはここで彼らのそばにいたほうがいいのでは? そう思っていたら、彼女は不安を見せないしっかりした様子で答えた。


「そのことについては、昨夜、院長と話しておいた。ルドとチルのことは院長がそばで守って、もしなにかあれば、この街の冒険者ギルドか官憲に避難するということだ」
「そうか」


 すでに話をつけているのなら、俺がこれ以上なにか口を挟む必要はないだろう。


「そういうことなら、この食器洗いが終わったら、すぐに出発の準備をしてくれ」
「分かった。ありがとう」

 ルナはうなずいた。
 ついでに、俺は尋ねる。

「そういや、俺がいた部屋に黒いローブが置かれていたが……」
「ああ、わたしが置いたんだ。あの貴族の服のままでは目立つだろうからな。その上からでも羽織ってくれ」
「サンキュ。あとで洗って返すから」

 そして八時半頃。俺たちは出発の準備を済ませて、最後にルナが院長たちに別れの挨拶をしておきたいということで庭に向かったとき、


「ああ、シャイナさん、お客様ですよ」


 院長が俺に声をかけてきた。


「俺に?」
「ええ。帝都からシャイナさんをお迎えにいらしたそうです」


 見ると、院長の後ろに魔法使いや魔導士が着るような黒いローブに身を包み、頭にそのフードをかぶった人物がいた。


「通信魔法具が直っていたのか、シャイナ?」


 ルナが聞いてくる。俺は無言のまま彼女を見て……その様子に、通信魔法具は直っていないし、誰とも連絡を取っていないことを、ルナは察したようで、目に警戒と真剣な色を帯びさせて、顔を隠した人物に視線を向ける。
 フードの人物に俺は言った。


「名前を聞いてもいいか? 顔も見せてくれ」


 その人物は言われた通り、顔を隠していたフードを外した。


「ヨナと申します……お久しぶりですね」


 長い銀髪を後ろでまとめて、フードをかぶれるようにするためか、その髪束を肩から胸に垂れさせた女。
 そいつは、この国の皇帝を襲撃したフリートを、連れて逃げた女だった。

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