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第一部 始まりの物語
第二十八話 『勇気ある者たちの集い』ってパーティーが滞在してる
しおりを挟む「皇帝の殺害予告だと?」
「そうだ」
俺の確認に女はうなずく。
「昨夜、街を見回っていた二人組の官憲が何者かに襲われた。幸い命に別状はなかったが、気絶していた彼らのポケットに、皇帝殺害の予告状が入っていたのだ」
「襲ったやつの顔は見てねえのか?」
「周囲が暗く、いきなりだったので見ていないそうだ」
手際が良く、また実際に官憲を襲っている以上、いたずらにしては度が過ぎてるな。
「だが犯人はバカだな。わざわざ予告なんかしたら、警戒が強化されるだけだろ。黙って暗殺すりゃ……」
瞳を鋭くさせながら、女は再度うなずく。
「……その通りだ。よって、これは陛下の警備を強化したことで、手薄になった他の何かを襲撃するための誘導だと、我々は見ている」
「たぶんだが、俺もそう思うぜ」
「とはいえ万が一のことがあってはならない。陛下の警備は厳戒態勢にしなくてはならないのだ」
「なるほどな……」
話が見えてきた。
「そのために俺にそのパーティーに潜入して、あんたらの手が回らない部分を警戒して、もし可能であればその犯人も捕まえろってことだな」
「理解が早くて助かる。無論、報酬は用意する。いわばこれは、我々から貴殿への直接のクエスト依頼だと思ってもらえばいい」
「……」
直接の依頼、ね……。
「もし断ったら?」
「有り得ない」
俺の言葉に、女は即座に断言した。
「カモフラージュだとしても、これは陛下と帝国に対するクーデター宣言に違いない。無論陛下と皇后妃殿下、皇子殿下と皇女殿下のことは絶対に守り抜くつもりだ。しかし、もし万が一のことがあれば、この国は騒乱に巻き込まれ、貴殿もいままで通りの生活はできなくなるだろう」
「……つまるところ、この依頼はこの国に住むやつらや、俺自身のための依頼ってわけか」
「そうだ」
ことの重大さを示すように、重々しく真剣に女はうなずく。
この依頼の成否は、サムソンやトウカやエイラ、ティムやルナやディアさん、その他いままで俺が出会ってきた人々や、出会っていない全ての人々の行く末が懸かっていると言っても過言ではないかもしれない……ってわけか。
「……分かった。引き受けよう……」
そう承諾したものの……。
「……責任重大だな……」
「そうだ。くれぐれも気を抜かないでくれ」
プレッシャーをかけてくる女に、俺は確かめる。
「この依頼を出したのは俺だけか? それとも他にいるのか?」
もしいるのなら、そいつらと協力したほうが成功率は上がるだろう。
「いや、貴殿が最初だ。予告があった後からずっと探しているのだが、中々条件に見合う人物が見つからなくてな。もし今後見つかれば、貴殿に連絡する」
「分かった。それと一応聞くが、パーティーに皇帝が出席しないということはできないのか?」
「明晩のパーティーには有力な貴族たちも列席する。陛下の足元をすくおうとする輩も含めてな。だから陛下は出席しなければならない」
皇帝も結構しがらみがあって大変なんだな。
「なら、予告のことを知ってるのは?」
「騎士団と魔導士団、一部の官憲と城の関係者、それと陛下自身にも伝えている」
「皇帝の家族には?」
「余計な心配はかけたくないと陛下が仰ったので、伝えていない」
そう思うのも仕方ないか。
「他には何か質問はあるか?」
女が聞いてきて、俺は一応伝えておくべきだと思って言った。
「俺は以前帝国で賊をしょっぴいたことがある。そのときの知り合いは俺が貴族じゃないって知ってるが……」
「その知り合いはパーティーに出席するのか?」
「いや……」
「なら問題はないだろう。とはいえバレないよう念の為に、貴殿にはこの後、我々が用意した部屋で待機してもらう。下手に出歩かず、用があるときは傍の者に言うように」
「分かった。……っと、この泉水はギルドに届けといてくれ。クエストの依頼品だ」
「了解した、後で届けよう。それと宿屋にも、キャンセルの連絡をしておこう」
「頼む」
そこで思い出した。
「そうだった、そのパーティーに今朝知り合った人が出席するんだ」
「その者は貴殿が貴族ではないと知っているのか?」
「ああ、俺は旅の冒険者だと話してる」
「ふむ……」
口元に手を当てて、女は考え込む。
「その者の名前は?」
「……まさか、なにかするつもりなのか?」
記憶の改竄などをするのなら、下手に名前は言えないだろう。
「警戒するな。だが貴殿の気持ちは察しよう。まだ完全には私を信じていないのだろう?」
「……」
「しかし、そうだな、その貴族に関しては貴殿に任せよう。何とか誤魔化してくれ」
「……分かった」
クラインさんを納得させられる言い訳を考えておかないとな。
「とりあえず、より詳しい打ち合わせは帝都でしよう。いま転移の魔法を使おう」
そう言って女がこちらに歩み寄ってくる。そばで手を空に掲げる彼女に、俺は最後に付け足すように言った。
「……俺以外に依頼できるやつを探してるって言ってたよな」
「そうだが?」
「……適任者に何人か心当たりがある」
この国の一大事だ。俺の個人的な気持ちは後回しにするべきだろう。なにかあってからじゃ遅えんだから。
「……帝都から馬車で数時間の街に、『勇気ある者たちの集い』ってパーティーが滞在してる。そいつらは俺と遜色ないくらい強いし、信用もできるやつらだ」
「ほう……貴殿がそこまで言う者たちか……後で会ってみよう」
興味を持った女に、俺は奥歯にものが挟まったように言う。
「……そいつらに、俺が紹介したことは伏せておいてくれ」
「何故だ?」
「……ちょっとな。……頼む」
「……」
なにかを察したらしい女は一回だけうなずいて、それ以上は聞いてこようとはしなかった。
そしてウィズが展開した転移魔法で、俺たちは帝都へと戻っていった。
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