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第一部 始まりの物語

第二十七話 皇帝陛下の殺害予告があったのだ

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「シャイナさん、最後にもう一度だけお聞きしますけど、本当に騎士団や魔導士団に入団する気はありませんか? シャイナさんならすぐに幹部クラスに……」


 騎士団の建物の入口の前でティムが聞いてくる。俺は首を横に振り、何度目になるか分からない同じ台詞を繰り返した。


「さっきも言ったが、そのつもりはないんだ。しばらくはいろんなところを旅したくてな」
「そうですか……」


 ティムは心底残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直したように、


「シャイナさんがそう言うのでしたら、仕方ありません。あなたの旅に幸運があることを」
「じゃあな」


 寂しそうな顔をするティムに背を向けて、俺は歩き出した。
 様々な店が並んでいるマーケット通りを進みながら、俺は懐中時計を確認する。時刻は昼過ぎ。
 どうりで料理屋に入っていくやつらが多いわけだ。とはいえ、俺自身はさっき遅い朝メシを食ったばかりだから、そんなに腹は減っていない。
 ……先に宿屋にチェックインして、そのあとにギルドに向かうか……。
 ギルドのクエストの新規依頼が更新されるのが午後。宿屋を探して、チェックインして、それからギルドに向かえば、だいたい午後の一時過ぎくらいになるだろうから、ちょうどいいだろう。
 昼時の人々の雑踏を進みながら、俺は宿屋を探し始めた。
 …………それからしばらくして。
 無事に宿屋にチェックインしてからギルドに向かうと、Fランクの俺でも受けられるクエストが二、三件あったので、そのうちの一つ、『森の泉の水をボトル一本分汲んでくる』というクエストを受けることにした。
 ギルドで渡された、目的地と自分の現在地が表示されている地図型の魔法具を見ながら、その泉へと向かう。道中、襲ってきた野犬タイプの魔物や、たどり着いた泉にたむろしていた何体かのスライムを倒して、難なく目的の泉水を入手する。


「さて、と……」


 地図には帝都の位置も表示されている。これを見ながら戻れば、森のなかでも迷うことはないだろう。


「あとはこれを持ち帰るだけだし、そろそろいいだろ。出てこいよ」


 振り返りながら、進んできた森の木立へと声をかける。


「騎士団を出てからずっとついてきてたことは気付いてる。ここなら他に誰もいねえし、話し合いにはもってこいだろ?」


 静かな木立になおも話しかけると、それらの木の一本の陰から一人の人物が姿を現した。


「気付いた上で、ここまで誘導したのか」


 女の声。


「まあな。騎士団や魔導士団の勧誘にしては、ストーキングまでするのはしつこすぎると思ってな」
「その口振り、私がその関係者ということも察しがついているということだな」


 魔導士が着る漆黒のローブのフードを外して、女が顔をはっきりと見せる。
 端整な顔立ち、白い髪を頭の後ろで団子状にまとめていて、瞳の色は黒。年齢は二十代の後半くらいで、ローブをまとっているため短剣などの武器を所持しているかは分からない。


「用件を聞こうか。まさか俺に一目惚れして、誘惑するためにストーキングしたわけじゃねえだろうし」
「あいにく一目惚れというのは信じていない」


 否定の言葉を挟んでから、女は言った。


「私はウィズ。帝国魔導士団の団長をしている。先程、抑えてはいるが非常に高い魔力を感じたので、その元をたどったら貴殿を見つけた」


 ……ということは、さっき騎士団の訓練場で魔法を使ったときの魔力を探知されたのか。


「騎士団の者と親しそうに話しているところも目撃した。察するに、貴殿は旅の冒険者で、騎士団からはある程度の信用を得ている……ということでよろしいか」
「まあな。何日か前に、ある騎士団員が依頼した、サイクロプス討伐のクエストを受けたことがある」
「もしや、貴殿が話に聞いたシャイナどのか」


 ティムの話は騎士団や魔導士団の間で結構広まっているらしい。


「ああ、俺がシャイナだ」
「ふむ……」


 考え込むように、ウィズと名乗った女は口元に手を当てる。独り言のように、


「……なるほどな……無論、後で一応の確認はするが……高い実力と信用……人材としては最適かもしれない……」


 そうつぶやいている女に、俺は言った。


「ぶつぶつ言ってねえで、早く用件を言え。まさか、あんたも俺と手合わせしてみたいってわけじゃねえんだろ」
「これは失礼。単刀直入に言おう。明日の夜、城で開かれるパーティーに、貴殿も出席してほしい。地方貴族の一人という設定で」
「は……?」


 なんでそんなことをする必要がある?


「混乱するのも無理もないが、話を聞いてくれ。貴殿にはそのパーティーに潜入して、事件を起こす賊を捕らえてほしい」
「ちょっと待て。なんで俺がそんなことを? あんたら魔導士団や騎士団や、もしくは官憲に……」
「もちろん私たちも警備にあたる。だが賊はそんな私たちを警戒するだろう。だから、賊に顔や身元が割れておらず、警戒されずに行動でき、なおかつ高い実力と私たちの信用がある貴殿が必要なのだ」
「だからなんでそんなことを……」


 女は俺をまっすぐに見据えて、


「皇帝陛下の殺害予告があったのだ」


 そう言い放った。



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