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第一部 始まりの物語
第二十一話 それじゃあね、シャイナ
しおりを挟む輝きが収まったとき、サムソンは剣を地面に刺して片膝をついていた。
「……」
「……くそっ……」
黙ったまま見据える俺に、やつがつぶやく。そして俺たちの身体は淡い光に包まれていき、元いた街の入口付近まで戻っていた。
「……負けを認めてくれるのか……」
やつ自身が空間転移魔法で帰還させたということは、そういうことなのだろう。
荒い息を吐きながらサムソンが言ってくる。
「……エイラに言われたよ。仲間が怪我をしても、自分がそれを完全に治すから、と……」
「……」
「だが、治す余裕もなく、その怪我で即死してしまっては意味がないんだ」
サムソンが奥歯を噛んだ。
「シャイナ、きみは確かに強い……だけどそれ故に、きみの光魔法は僕たちの目も潰してしまう……」
数日前にも聞いた言葉だ。
「シャイナ……きみのその強さは仲間を巻き添えにしてしまう……きみのその強さは、きみがひとりで戦うときに真価を発揮するんだ」
「……」
苦しそうにやつは言った。
「僕はパーティーリーダーとして仲間を危険に晒す訳にはいかない……僕は仲間を守りたいんだ……シャイナ、だから、分かってくれ……」
「……分かってるさ」
そのとき、俺たちの名前を呼びながら誰かがこちらへと駆けてくる姿が見えた。
トウカだった。
「こんなところにいたのか! エイラが、シャイナが部屋にいないと言って、もしかしたらと思ってサムソンの部屋に行ったらサムソンもいないしで、探していたんだぞ! って、サムソン⁉ どうしたんだ⁉」
「……やつの手当てをしてやってくれ……エイラならすぐに治せるはずだ……」
俺はサムソンに背を向けて、トウカとすれ違うように歩きながら言う。
「なにがあったんだ?」
聞いてくるトウカには答えず、俺は進み続ける。その背中に、サムソンが言ってきた。
「シャイナ、なぜ本気を出さなかった?」
俺は歩みを止めない。
「きみが本気を出せば、僕は跡形もなく消え去っていたはずだ。答えてくれ。僕なんかには本気を出すまでもないということか?」
俺は答えない。
最後にサムソンは言った。
「……さよならだ、シャイナ……」
俺は振り返らなかった。
……数時間後。
太陽がまだ顔を出しておらず、鶏の声も聞こえてこない早朝。
あのあと、俺はサムソンたちが泊まっている宿屋には戻らず、別の宿屋に泊まった。
……とはいえほとんど眠れなかったが。
まだ暗いなか、俺はその宿屋を出て馬車組合の建物へと向かう。早朝から出発する冒険者などのために、この時間でもそこは開いている。
そこの前へと着いたとき、その入口近くの柱にエイラが佇んでいた。彼女は俺の姿を認めると、こちらに駆け寄ってきて抱きしめてきた。
「行かないで、シャイナ!」
「……どうして俺が来ることが分かった?」
「トウカが、もしシャイナがこの街を離れようとしているのなら、ここに来る可能性があるって」
「……それでずっと待ってたのか……」
エイラがうなずく。その目元にはうっすらとくまができていた。
いまにも泣きそうになっている彼女に俺は言った。
「……離してくれ、エイラ」
「いや! いま離したら、シャイナと二度と……」
その先を続けられず、彼女は俺の胸元に顔を埋めてしまう。
俺は建物の路地の陰へと目を向けて、声をかけた。
「……そこにいるんだろ、トウカ」
「え……?」
エイラもそちらに視線を向けたとき、その路地の陰からトウカが姿を現す。彼女もまた、目元にうっすらとくまができていた。
「エイラのことが心配でね」
そう言いながら近付いてくるトウカに、俺は言う。
「エイラのことを頼む」
トウカがうなずき、それとともにエイラの顔の近くに小さな渦のような気功の流れが現れて……がくんとエイラが気を失った。
「『絶気』。普段のエイラならこの程度じゃ効かないんだけど、ほとんど徹夜だったからね」
「睡眠魔法みたいなもんも使えるとか、相変わらず便利だな、気功ってやつは」
「あたしに言わせれば、魔法のほうが便利だけどね」
気絶したエイラをトウカに渡しながら、俺はずっと気になっていたことを尋ねる。
「トウカもやっぱり、俺がパーティーにいないほうがいいと思ってるのか?」
気をつけていたつもりだったが、やはりその声音は少なからず落ち込んだものになってしまっていた。
彼女は口を開く。
「サムソンはきみがいないほうがいいと思っているし、エイラはきみと一緒にいたいと思っている」
「……」
「して、あたしはというと……どっちでもないのさ」
「……は……?」
よいしょっとエイラをおんぶしながらトウカは続ける。
「あたしはシャイナ、きみの気持ちを優先したいと思っていてね。きみが離れたいなら離れればいいし、一緒にいたいならいればいい」
「……」
「そもそも、あたしがなんと言おうと、きみのその気持ちまでは変えられないし、無理にさせても後々しんどくなるだけだろうからね」
「……トウカ自身はどう思ってるんだ?」
「……」
俺のその問いにトウカは答えずに、背を向けて、いつもの調子で言ってきた。
「そうそう、昨日きみが怪我をして、その治療に関してエイラはふざけた調子で言ってたけど……本当はそんなこと考えてる余裕もないくらい、きみのことを心配してたんだよ。全身傷だらけのきみを見て、もしかしたら本当に死んじゃうかもって、可愛い顔をぐしゃぐしゃにしてね」
「……」
「あたしがエイラに付き添ってたのもそれが理由さ。一応、きみに伝えておこうと思ってね」
最後に、俺のクセを真似するように、
「それじゃあね、シャイナ」
背中越しに手を振って、トウカは去っていった。
その声が少し悲しく寂しそうに聞こえたのは、たぶん俺の気のせいかもしれない。
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