上 下
20 / 235
第一部 始まりの物語

第二十話 『ミストルテイン』

しおりを挟む
 
「行くぞ」


 地面を蹴って、サムソンがこちらへと飛び出してくる。
 くっ……⁉
 振り抜かれた斬撃をバックステップで避けつつ、俺は叫んだ。


「待て! なんで俺たちが戦う必要があるんだよ⁉」
「言っただろ、僕ときみのどちらが強いのかはっきりさせるためだと」
「だからなんでそんなことする必要があるんだ⁉」
「分からないのか?」


 言いながら、サムソンはまたもこちらへと猛スピードで迫ってきて、剣を振り上げた。
 くそっ!
 それを防御するための光の盾を作ったとき、一瞬にしてやつの姿が目の前から消える。


「瞬身斬」


 刹那、声が背後から聞こえた。


「っ!」


 振り返る余裕はない。俺は真横に跳び、側転するように地面に片手をついて、くるりと回りながら、背後から振り下ろされた斬撃をギリギリで回避する。


「さすがだ、シャイナ。いまの一撃がかすりもしないなんて」


 いまのはサムソンが使う剣術の一つだ。目にも止まらぬ速さで瞬時に移動し、相手を斬り裂く。
 俺が避けられたのは、ただ単にやつのこの技を知っていたからに過ぎない。初見なら、完全な回避はまず無理だろう。


「……本気で殺す気かよ」
「きみならこれくらいじゃ死なないことは分かってるさ。それに死なない限りは、エイラに治してもらえる」


 無茶苦茶なこと言いやがる。


「不意打ちもしないんじゃないのかよ」
「それはあくまで空間転移魔法に関してだ。これはただの技術だよ」
「……ハッ、目の前で消えるくせに、ただの技術で済ませんなよ」


 相変わらず人間離れした剣術してやがる。


「ウォーミングアップはこれくらいにして、そろそろ本気でいこうか……『エレメントエンチャント』」


 属性付与魔法。魔法剣の基本的な戦術だが、サムソンの場合は炎、水、土、風の四つを一度に付与し、状況に応じて自由に使いこなすことができる。


「炎風双連斬」


 サムソンが業火をまとった剣を振り抜き、その業火の剣筋が二本、俺へと迫ってくる。


「くっ……⁉」


 慌てて俺は身を伏せて一本目を回避し、続く二本目をさっきのように側転するようにしてかわす。背後で炎の剣筋が小さな丘を焼き斬ったとき、俺の目の前にやつがいた。


「氷瞬四身斬」


 その瞬間、前後左右、四つの方向から氷の斬撃が迫ってくる。


「くそっ!」


 とっさに俺は地面を蹴って上に跳ぶが、


「瞬身流星斬」


 背後からサムソンの声が響く。これは相手の上空から無数の小隕石を落とす技だ。俺は振り向き様に手をかざし魔法陣を展開させて、


「『グロウアローズ』!」


 その手の魔法陣から無数の光の矢を撃ち出して、降りかかる小隕石群を相殺させていった。


「やっぱりこの程度じゃ、傷一つ負わせられないか」


 互いに地面に降りたって、やつが言う。


「でも負けるわけにはいかないんだ、僕は……!」


 地面を蹴ってサムソンが迫ってくる。他のやつならいざ知らず、いくらなんでもサムソン相手に近接武器なしというのはきつすぎる。


「『ライトブレイド』!」


 俺は手に光の刃を作り出すと、斬りかかってくるやつの刃を受け止める。


「なんでだサムソン! なんでどっちが強いのか、はっきりさせる必要があるんだ⁉」


 右、左、上、下、背後、正面突き……縦横無尽に降りしきる刃の雨を、ときにかわし、ときに光の刃で防ぎながら俺は叫ぶ。しかしやつはその斬撃の雨をやめようとはしない。


「逆に聞こう! なんできみはそんなに強いのに、いつまでもFランクで満足しているんだ⁉」
「……!」


 あらゆるものを焼き尽くす業火の刃、全てを凍てつかせる氷の剣、はるか彼方まで斬り刻む風の太刀、大地の形を変える土の猛攻……。
 それらによって周囲の荒野は、あるところは焼き払われ、あるところは氷に閉ざされ、あるところは鋭い傷跡を残し、あるところは地面に亀裂が入っていく。
 剣術だけでも人間離れしたやつが魔法剣を扱うということは、ここまで周囲の様相を変貌させてしまうんだ。


「僕はAランクだ! だがきみは最低ランクのFランクだ! 本来なら、僕はきみに負ける道理はないし、闘いにすらならないはずなんだ!」
「……っ」


 やつの言っていることも、言いたいことも分かる、分かっているつもりだ。


「答えろシャイナ! なぜランクを上げようとしない⁉ なぜ……僕と本気で闘おうとしないんだ⁉」


 荒野に広がる業火が周囲を照らし、同じく広がる氷原がその明かりを反射して煌めいていく。


「決闘を始めてから、きみは守ることしかしていない! 本気を、全力を出せ、シャイナ!」
「……っ」


 やつの顔は怒りに似た感情に満ちているのに、その声は悲痛に似た響きをまとっていた。
 叫ぶやつに、俺は答える。


「……追放されたとはいえ、おまえは俺の仲間だったからだ……それに、俺にはおまえと戦う理由がない」


 それを聞いて、やつがつぶやく。


「……そうか……」


 サムソンは一度攻撃を止めると、バックステップで距離を取り、剣を高く掲げた。


「なら、本気を出させてやる……『マクスウェルフォース』!」


 その剣身に四元素の力が集約されていき、まるでオーロラのような神秘的な輝きをまとっていく。


「構えろ、シャイナ。きみも本気を出さないと、本当に死ぬぞ」
「……」


 ……俺は静かに手をかざす。


「『……我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。我が眼前に対峙する者を退けよ……『ミストルテイン』」


 その手の先に眩い輝きに満ちた魔法陣が展開され……。


「うおおおおっっ!」
「……」


 サムソンが雄々しき猛りとともに剣を振り下ろし、俺は静かにそれを見据えて……そして二つの輝きは放たれて、激突した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...