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第一部 始まりの物語

第十九話 僕と闘え、シャイナ。僕ときみ、どちらが強いのか、いまここではっきりさせよう

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「……」
「……」
「……」
「……」
「……」


 食堂のテーブルについたあと、俺たちは全員黙りこくっていた。席順は時計回りにサムソン、トウカ、ディアさん、俺、エイラとなっている。
 テーブルの上にはすでにそれぞれの料理が運ばれてきていて、サムソンたちはそれを静かに食べている。


「あの、シャイナさん……パーティーでの話し合いって、いつもこんな感じなんですか?」


 隣に座るディアさんが俺にだけ聞こえるように、小さな声で聞いてくる。俺も小さな声で、


「いや……いつもはもっと賑やかなはずなんだが……」


 空気が重い。その言葉がぴったり当てはまるくらいに、その場の空気には声を発することが憚れるような雰囲気があった。
 耐え難いようなその沈黙を破るかのように、スープを口に運びながら、ようやくのことでサムソンが口を開く。


「明日は予定通り、魔物討伐のクエストに向かう。それでいいな?」
「分かった」


 視線をスープに固定したまま顔を上げずに言うサムソンに、トウカも視線を自分の料理に向けたまま応じる。


「……」


 しかし、やはりエイラは答えず、ただ静かに料理を口に運び続けていた。
 気まずい雰囲気のまま食事は終わり、俺たちは食堂を出る。


「それじゃあ、僕の部屋はこっちだから」


 そう言ってサムソンは離れていくが、あれ? と思って俺はトウカに聞いた。


「トウカとエイラの部屋もあっちのほうだろ? 行かないのか?」


 パーティーの決まりごとの一つで、宿屋に泊まるときの各人の部屋は、基本的に近くになるようにしてあったはずだった。無論、宿屋の宿泊状況などの理由で、近くの部屋が取れなかった場合は別だが……。
 とにかく、そうしたほうがなにかしらあった際に、すぐに合流して対処できるし、現に俺がパーティーを離れる前はそうしていた。


「あたしとエイラは部屋を変えたんだ」


 トウカが答えて、思わず俺は「え?」と聞き返す。


「エイラが別の部屋にすると言ってな。それであたしもエイラの隣の部屋に移動したんだ」


 トウカの説明に、俺はエイラのほうを見やる。彼女はサムソンに背を向けていて、明るい調子で言った。


「それじゃ部屋に戻ろ。ふっふーん、わたしとトウカの部屋はシャイナの部屋の近くなんだよ。ディアさんの部屋は?」
「あ、わたしの部屋もそっちのほうです」


 フロントで渡された鍵のルームナンバーを見て、ディアさんが答える。


「へえー、奇遇だね。ディアさんもわたしたちの近くなんだ」


 ディアさんのルームナンバーを見たエイラはそう言ったかと思うと、ディアさんの耳にそっと囁いた。


「負けないからね」
「……っ⁉」


 ディアさんがびくっとなってエイラに顔を向ける。エイラはにこっと笑った。


「あの二人、なんか勝負でもしてるのか?」


 俺がトウカに聞くと、


「……はあ……」


 トウカはやれやれと言いたげなクソデカイため息をついた。
 なんでだ?
 


 ……夜中。
 エイラたちと別れて自分の部屋に戻った俺は、頭の後ろに手を当てながらベッドに寝そべっていた。
 昼間に寝ていた、というか気絶していたせいで、いまは眠気はあまりなかった。たぶん、いまごろエイラたち三人は部屋に集まって女子会とやらでもしてるんだろう。さっきそう言ってたし。
 眠れないせいで、いままでに起きたいろいろなことが頭を巡っていく。こんなんじゃ、明日は寝不足かもな。……と、そんなことを考えていたとき、部屋のドアがノックされた。
 誰だ? こんな時間に。
 サイドボードに置かれた時計はすでに夜中を示している。俺はドアまで近付いていって、


「誰だ?」
「……僕だ」


 サムソンの声だった。俺はドアを開ける。


「どうした? こんな時間に」
「……ちょっと外に出ないか」


 廊下には照明が灯っていて、その明かりのなかに立ちながらサムソンは言った。どうやら話をしたいようだ。


「いいぜ」


 俺はうなずいた。


「どこに行く? 久しぶりに酒場でも行くか? まあ、こんな時間に開いてるとこなんて……」


 俺が言い終わる前に、サムソンが口を挟んだ。


「場所はもう決まってるんだ」


 その瞬間、足元に魔法陣が浮かび上がり、淡い光が俺たちの身体を包み込んでいく。


「!」


 一瞬後、俺たちは月と星明かりが照らし出す、広大な荒野のど真ん中にいた。


「……どういうつもりだ? サムソン」


 いまいる場所を確認して、俺が尋ねると、サムソンは背を向けて少しだけ距離を取ると、再び俺のほうを向いて、


「いきなり転移させて、すまない。ここは街から離れているし、こんな時間だから周りには誰もいないだろう」
「そんなことは聞いてない。いったいどういうつもりで……」
「ここなら、僕たちが全力で戦っても、何の心配もいらない。ここなら、僕たちは本気で闘える」
「おまえ、まさか……」


 サムソンはなにもない空間から一振りの長剣を取り出した。
 空間魔法による転移と収納。


「先に言っておくよ。僕が使った空間転移はまだ未熟で、あらかじめマーキングした地点にしか転移できない。つまり、この荒野では、いまシャイナがいるところにしか瞬間的に移動できない」


 空間転移による不意打ちの心配はしなくていい……やつはそう言いたいんだ。
 そしてサムソンは手にした剣の切っ先を俺へと向けて、


「僕と闘え、シャイナ。僕ときみ、どちらが強いのか、いまここではっきりさせよう」


 真剣な眼差しでそう言った。



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