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第一部 始まりの物語

第十八話 わたしがこんなふうになるのはシャイナだけなんだからね!

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 ……サムソンのやつ、俺とはしゃべろうとしなかったな……。
 サムソンとディアさんがフロントまで向かっていく足音を聞きながら思う。そういえば、エイラたちも、普段とは様子が違っていたような……。トウカは柄にもなく真面目一辺倒な調子だったし、エイラはサムソンと話そうとしなかったし……。


「なにかあったのか? サムソンと」


 部屋に残ったトウカとエイラに尋ねると、二人とも『マジかこいつ』みたいな驚いた顔をした。トウカが呆れたように肩をすくめる。


「やれやれ、無自覚、鈍感、ここに極まれり、だな」
「は?」
「ついでに女たらしバカ男も付け加えようか」
「その誤解はもう解けただろ⁉」


 トウカはクソデカイため息をついた。なんでだよ⁉ 俺、なんか変なこと言ったか?
 気を取り直したように、エイラが俺の腕を取る。


「そんなことよりさ、せっかくこうして再会できたんだから、一緒に夕食食べようよ。ディアさんも誘って」
「いいのか? 明日の打ち合わせがあるんだろ?」
「いいのいいの、っていうか、それにシャイナが来なくてどうするの?」
「いや、だって……」


 俺はもうパーティーメンバーじゃ……。
 そう言おうとしたとき、トウカが口を挟んでくる。


「同席するのなら、服も着替えたらどうだ。シャイナが普通の服を着てると、なんか違和感があるし」
「失礼なやつだな」
「とにかく廊下に出てるから」


 そう言ってトウカが廊下に出ていく。しかしなぜかエイラは残っている。


「おまえも出ろよ」
「なんで?」


 出ていこうとしないエイラに言うと、彼女はきょとんとした。


「なんでもなにも……」


 言わなくても分かるだろうが。しかし彼女は笑顔で、


「もー、シャイナったら照れなくてもいいんだから。わたしたちの仲じゃない」
「親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らんのか?」


 俺がそう言ったとき、エイラがいないことに気付いたらしいトウカが戻ってきて、エイラの襟首を掴んで引っ張っていった。


「はいはい殿方が着替えるときは外に出ていこうねー」
「あーんっシャイナあーっ」


 ばたんっ。ドアが閉まる。はあ……エイラにも困ったもんだな……。
 そう思いながら、俺は着替え始めた。
 


 着替えを終えて、俺は二人と食堂に向かうために廊下を歩く。なんか、成り行きで行くことになったが……流されてるなあ、俺。


「もおー、せっかくシャイナの着替えを堂々と見るチャンスだったのにー」


 エイラが言う。変態かこいつ?


「いまさら恥ずかしがらなくてもいいのに。いままでだって怪我を治すときに服脱ぐことあったじゃん」
「あれはあくまで治療のためだろうが」


 俺が言うとエイラは頬を少し膨らませるようにして、


「シャイナだってわたしに見られたいくせに」
「人を変態みたいに言うな」
「そもそも昼間の怪我を治すときに一度見てるんだからさー」
「そうだとしてもだな……」


 ……ん?


「ということは、エイラが俺の服を脱がしたのか?」
「そうだよー、ぐへへ、いい身体してるじゃねえか、にいちゃんよおー」


 マジか……。説明するようにトウカが口を開いた。


「一応言っておくが、他にもヒーラーはいたし、いかがわしいことは一切してないからな」
「まさかトウカも見たのか?」
「エイラの見張り役、もとい付き添いでな。それに治療のためなら、別に構わないのだろう?」
「それはそうなんだが……気絶してるときに見られるというのは、複雑な気分になってな……」


 俺は自分の顔に手を当てる。


「……まさか、ズボンも脱がしたのか?」


 そう聞いた瞬間、ぶはっとエイラがのけぞった。
 気にせずにトウカが答える。


「それは男のヒーラーが担当したし、そのときにはおおよその怪我は治していたから、女のあたしたちは一旦外に出ていた。下着は変わってなかっただろう?」
「まあ……というか、大丈夫か、エイラ?」


 俺が尋ねると、エイラは鼻の辺りを手で押さえながら、


「だ、だいじょぶ、だいじょぶ。想像したらちょっと鼻血が出ただけだから。いますぐ治すから気にしないで」


 全然大丈夫じゃねえな、別の意味で。俺はトウカに耳打ちする。


「こいつ、やっぱり変態なのか?」
「あはは、前からこんな感じだろ? エイラらしくていいじゃないか」


 聞こえていたのだろう、エイラが文句を言ってくる。


「か、勘違いしないでよね、わたしがこんなふうになるのはシャイナだけなんだからね!」
「俺が悪いみたいに言うな!」


 トウカがあはははと笑った。
 そうこうしているうちにフロントの近くを通り、そこでチェックインの手続きをちょうど終えたらしいディアさんとサムソンと合流する。


「一緒に食事をする?」


 トウカから説明を受けたサムソンが眉をピクリと動かした。


「別に構わないだろう? それくらいなら」


 トウカが言うと、サムソンは俺を一瞥して、すぐに視線をそらした。


「……そうだな……それくらいなら……」


 そして俺たちはともに食堂へと向かっていった。相変わらずサムソンは俺としゃべろうとしなかったし、エイラもサムソンとはしゃべろうとしなかったが……。



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