3 / 235
第一部 始まりの物語
第三話 本当にありがとうございます!
しおりを挟む
スライム。食べ物のゼリーに似た外見をしていて、透けて見えるその身体のなかには核と呼ばれる、人間にとっての脳と心臓を合わせたような、球体状の生命維持器官を内包している。
そのスライムがあまつさえ空から大量に降ってきていて、街の建物や人々に襲いかかっていた。
「な、なんですか、これはっ⁉」
俺のあとを追ってきたのだろう、紫ポニテの受付嬢が驚愕に満ちた顔で隣にいた。
「スライムだ。青色をしているから、ブルースライムだな」
魔物のなかには体格的には同じでも、体色が異なるものがいる。スライムもその一種で、青色のブルースライムは水や氷系の攻撃を主にしてくる。
俺の言葉に、受付嬢はこちらを見て、
「それは分かります、そうじゃなくて、どうしてスライムが空から……⁉」
「そんなこと俺が聞きたいな」
種類にもよるが、スライムは基本的に水辺や湿地帯に生息している魔物だ。無論、食糧を求めて人里を襲うことはあるが……空から降ってくるなんてことは、いままで見たことも聞いたこともない。
「とにかく、街をメチャクチャにされる前にこいつらを討伐しねえと……! 一応、あんたは下がってろ」
「な、なに言ってるんですか⁉ ブルースライムはDランクですし、こんなにたくさんいるんですから! Fランクのあなた一人じゃ……! いま応援を呼んで……」
「そんなの待ってられるか!」
こうしている間にも、スライムたちによって放たれた酸や氷塊などの攻撃によって、あちこちの建物や人々が傷付き、倒れていっている。なかには、巨大な水の塊に閉じ込められて、もがき苦しんでいる人々もいた。
事は一刻を争うだろう。
俺はなおもスライムが降り注いできている空に右手を伸ばして、呪文を唱えた。
「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。光の雨撃よ、この街を脅かす我が敵に降り注げ、ブライトレイン!』」
レッドドラゴンのときとは違う呪文。ドラゴンのときに唱えたのは威力強化だったが、今回はこの街全体をカバーできるくらいの魔法範囲にするための、範囲拡大の呪文だ。
右手のひらの先、この街の上空に、この街を覆うほどの巨大な魔法陣が浮かび上がり、円や幾何学模様が描かれているその陣から無数の光の矢が降り注いで、街に蔓延るブルースライムたちを貫いていった。
それとともに無数の衝撃音と視界を埋め尽くすほどの閃光が辺り一帯に満ちていき……。
「きゃあ……っ⁉」
隣にいた受付嬢が、ぎゅっと目をつぶり、耳を押さえながらその場にへたりこんでしまう。受付嬢だけでなく、街にいた人々も皆一様にその場に倒れたり、うずくまっていた。
……しまった……!
閃光と音がやみ、周囲が徐々に色を取り戻していく。街には討伐したスライムの残骸や助かった人々や建物の姿が広がっていて、本来ならば喜ぶべきところなのだろうが、俺は苦々しい思いでそれらを見つめていた。
……さっきサムソンに言われたばかりじゃねえか……! バカか、俺は!
今度からは気を付ける、俺はサムソンにそう言ったのにもかかわらず、こうしてまた同じ過ちを繰り返している。
街をスライムの脅威から守るため仕方がなかった……そう言い訳をすることもできるだろう。
しかし、俺は自分自身に怒りを覚えていた。過ちを繰り返す自分に、拳を握りしめ、心のなかで舌打ちをする。
……クソがっ!
俺が俺に毒づいているとき、隣で呆気に取られたような声が聞こえてきた。
「これは……いったいなにが……?」
見ると、地面にへたりこんだまま、顔だけ上げた受付嬢が周囲を見回していた。状況を把握しようとするように、俺のほうを見上げてくる。
「もしかして、あなたがやったんですか……?」
「……」
彼女の言葉に責めるような響きはない。だが、一時的とはいえ彼女や街の人々の視覚と聴覚に強烈な衝撃を与え、へたりこませたり倒れさせたりしてしまったことは事実だ。
「……すまなかった……」
「……え……?」
だから、第一声は謝罪の声だった。
「あんたたちを怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、一刻も早くスライムを倒そうと思っていたら、手加減をすることを忘れちまってて……」
「え? え?」
「だから、すまなかった」
俺が二度目の謝罪を告げたとき、開いたままになっていた背後のドアの向こう、ギルドの建物のなかから、パチパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「いやあ、素晴らしい。あれほどの量のブルースライムをたった一人で、それも一瞬で全滅させるとは」
拍手とともに聞こえてきた声に振り返ると、そこには軽装の剣士といった出で立ちの、緑髪の男がいた。そいつが続ける。
「その若さでこれほどの実力をお持ちとは、お名前をうかがってもいいですか?」
「……シャイナ。あんたは?」
「これは失礼。私はティム。帝都の騎士団に所属しています。いまはとある任務があって、この街にいるのですが」
「そうか……あんたも俺のせいで目と耳がやられちまっただろ、悪かったな」
「いえいえ、お気になさらずに。スライムを倒すためですし。そんなことより、シャイナさんのその実力を見込んで、お願いがあるのですが」
「お願い……?」
俺が疑問を口にすると、そいつはにこやかに笑いながらうなずいて、
「ええ。実はいまサイクロプスの討伐クエストを依頼しているのですが、まだ二人しか集まっていなくて。それにシャイナさんも参加していただけたら、と」
サイクロプスの討伐依頼。あれを依頼していたのが、こいつだったのか。
俺はちらりと、隣でいまだにへたりこんだまま俺たちの会話を聞いていた受付嬢のほうを見てから、
「悪いな。俺はFランクだから、そのサイクロプスの討伐には参加できねえんだ」
「Fランク⁉」
俺のその言葉に、緑髪の男は見るからに驚愕した顔を浮かべて、目を大きく見開いた。そして、あはははと高らかに笑って、
「ご冗談を。それだけの実力がありながらFランクなわけないでしょう。Sランクの間違いですよね」
「いや……事実だ」
「は……?」
そいつはハトが豆鉄砲を食らったような、信じられないという顔をする。
そんな反応はいつもならテキトーにスルーするんだが、いまは、さっきの閃光と衝撃音のことも相まって、俺はどことなく気まずい思いになった。
緑髪の男は納得いかないというように、
「信じられない。まさかこんな逸材がFランクに甘んじているとは……。いったいランク試験官たちは何をしているんだ……!」
「いや、そいつらはべつに悪くは……」
俺の言葉など聞こえていないというように、そいつは言った。
「とにかく! シャイナさんには是非ともサイクロプスの討伐に参加していただきたい。依頼内容にもランク指定はしていませんし。あなたがいれば、サイクロプスなど簡単に討伐できるでしょう!」
「いや、だが……」
俺はもう一度、隣にいる受付嬢に視線を向ける。
参加してはダメです! と、彼女にさんざん言われた手前、ここで首を縦に振るのは……。
俺がそう思っていると、緑髪の男は俺の隣にへたりこんだままの受付嬢のほうを向いて、
「ギルドの受付嬢さん!」
「は、はひ⁉」
いきなり呼び掛けられて、紫ポニテの受付嬢が声を裏返させた。
「な、なんでしょうか⁉」
「あなたからもお願いしてください! あなたも先ほどのシャイナさんの強さは見たでしょう⁉ 彼ならサイクロプスの脅威から人々を守れるんです!」
「えっと、あの……」
「クエストの依頼主である私が言ってるんだ、反対する理由はないでしょう!」
「その、えっと……」
どう返事をすればいいのか戸惑っている様子の紫ポニテ受付嬢が、ギルドのなかで俺たちの成り行きを見守っていた他の受付嬢や職員のほうに顔を向ける。
判断を仰ごうとする彼女に、他の受付嬢や職員はうんうんとうなずき、上司と思われるおっさんもこくりと首を縦に振った。
それらを見て、紫ポニテ受付嬢は緑髪の男に顔を向けると、
「わ、分かりました。ティムさんが依頼したサイクロプスの討伐クエストに、シャイナさんをエントリーいたします」
「ありがとう、受付嬢さん!」
本当にうれしかったのだろう、緑髪の男は拳を握ってガッツポーズした。
……なんか、クエストにエントリーすることがこんなに大げさなことになるとは……。
……とにかく、決まったからには、今度こそ味方を巻き込まねえように注意しねえと……。
その後、ギルドの受付で正式にクエストへのエントリーを済ませると、俺はティムの持つ指輪型の空間魔法具で、他のクエスト参加者の待つ場所まで行くことになった。
「それでは行きますよ、シャイナさん」
「その前に、ちょっと待っててくれ」
「なにか?」
「ちょっとな」
俺はギルドの受付の向こうで、立ちながらこちらを見守っていた紫ポニテ受付嬢の元まで向かい、
「言い忘れていたんだが」
「は、はひ⁉ な、なんでしょうか⁉」
「もしかしたら、さっきの俺の魔法のせいで、街の誰かが体調を崩しているかもしれない。できる限りでいいから、街の様子を見て、そういうやつがいたらヒーラーを呼んでおいてくれ」
「わ、分かりました! こ、この命に代えても!」
「いや、そこまで気負う必要は……」
「あ、そ、そうでふよね!」
噛んだ。
やはりさっきの閃光の影響が残っているのだろうか、目の前の紫ポニテ受付嬢はどこか落ち着かない様子でそわそわしていた。
「あんたもヒーラーに見てもらったほうがいいかもな」
「へ?」
「とにかく、頼んだぞ」
「は、はひ!」
一応、近くにいた彼女の上司のおっさんにも目を向けると、了解したというようにそのおっさんは力強くうなずいた。
用件が済んで、俺はティムの元に戻る。
「さあ、行くぞ」
「では……」
ティムが指輪をはめた拳を自分の身体の前に持ってきて、魔力を込め始める。俺たちがいる床に淡く輝く魔法陣が浮かび上がり、俺たちの身体がその光に飲み込まれようとしたとき、
「あ、あの! わたしも言い忘れてました! さっきは街のみんなを助けていただいて、本当にありがとうございます!」
俺の背中に紫ポニテの声が響いてきて、
「気にすんな」
背中越しに手を振り返して……そして俺たちは目的の場所に向かっていった。
そのスライムがあまつさえ空から大量に降ってきていて、街の建物や人々に襲いかかっていた。
「な、なんですか、これはっ⁉」
俺のあとを追ってきたのだろう、紫ポニテの受付嬢が驚愕に満ちた顔で隣にいた。
「スライムだ。青色をしているから、ブルースライムだな」
魔物のなかには体格的には同じでも、体色が異なるものがいる。スライムもその一種で、青色のブルースライムは水や氷系の攻撃を主にしてくる。
俺の言葉に、受付嬢はこちらを見て、
「それは分かります、そうじゃなくて、どうしてスライムが空から……⁉」
「そんなこと俺が聞きたいな」
種類にもよるが、スライムは基本的に水辺や湿地帯に生息している魔物だ。無論、食糧を求めて人里を襲うことはあるが……空から降ってくるなんてことは、いままで見たことも聞いたこともない。
「とにかく、街をメチャクチャにされる前にこいつらを討伐しねえと……! 一応、あんたは下がってろ」
「な、なに言ってるんですか⁉ ブルースライムはDランクですし、こんなにたくさんいるんですから! Fランクのあなた一人じゃ……! いま応援を呼んで……」
「そんなの待ってられるか!」
こうしている間にも、スライムたちによって放たれた酸や氷塊などの攻撃によって、あちこちの建物や人々が傷付き、倒れていっている。なかには、巨大な水の塊に閉じ込められて、もがき苦しんでいる人々もいた。
事は一刻を争うだろう。
俺はなおもスライムが降り注いできている空に右手を伸ばして、呪文を唱えた。
「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。光の雨撃よ、この街を脅かす我が敵に降り注げ、ブライトレイン!』」
レッドドラゴンのときとは違う呪文。ドラゴンのときに唱えたのは威力強化だったが、今回はこの街全体をカバーできるくらいの魔法範囲にするための、範囲拡大の呪文だ。
右手のひらの先、この街の上空に、この街を覆うほどの巨大な魔法陣が浮かび上がり、円や幾何学模様が描かれているその陣から無数の光の矢が降り注いで、街に蔓延るブルースライムたちを貫いていった。
それとともに無数の衝撃音と視界を埋め尽くすほどの閃光が辺り一帯に満ちていき……。
「きゃあ……っ⁉」
隣にいた受付嬢が、ぎゅっと目をつぶり、耳を押さえながらその場にへたりこんでしまう。受付嬢だけでなく、街にいた人々も皆一様にその場に倒れたり、うずくまっていた。
……しまった……!
閃光と音がやみ、周囲が徐々に色を取り戻していく。街には討伐したスライムの残骸や助かった人々や建物の姿が広がっていて、本来ならば喜ぶべきところなのだろうが、俺は苦々しい思いでそれらを見つめていた。
……さっきサムソンに言われたばかりじゃねえか……! バカか、俺は!
今度からは気を付ける、俺はサムソンにそう言ったのにもかかわらず、こうしてまた同じ過ちを繰り返している。
街をスライムの脅威から守るため仕方がなかった……そう言い訳をすることもできるだろう。
しかし、俺は自分自身に怒りを覚えていた。過ちを繰り返す自分に、拳を握りしめ、心のなかで舌打ちをする。
……クソがっ!
俺が俺に毒づいているとき、隣で呆気に取られたような声が聞こえてきた。
「これは……いったいなにが……?」
見ると、地面にへたりこんだまま、顔だけ上げた受付嬢が周囲を見回していた。状況を把握しようとするように、俺のほうを見上げてくる。
「もしかして、あなたがやったんですか……?」
「……」
彼女の言葉に責めるような響きはない。だが、一時的とはいえ彼女や街の人々の視覚と聴覚に強烈な衝撃を与え、へたりこませたり倒れさせたりしてしまったことは事実だ。
「……すまなかった……」
「……え……?」
だから、第一声は謝罪の声だった。
「あんたたちを怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、一刻も早くスライムを倒そうと思っていたら、手加減をすることを忘れちまってて……」
「え? え?」
「だから、すまなかった」
俺が二度目の謝罪を告げたとき、開いたままになっていた背後のドアの向こう、ギルドの建物のなかから、パチパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「いやあ、素晴らしい。あれほどの量のブルースライムをたった一人で、それも一瞬で全滅させるとは」
拍手とともに聞こえてきた声に振り返ると、そこには軽装の剣士といった出で立ちの、緑髪の男がいた。そいつが続ける。
「その若さでこれほどの実力をお持ちとは、お名前をうかがってもいいですか?」
「……シャイナ。あんたは?」
「これは失礼。私はティム。帝都の騎士団に所属しています。いまはとある任務があって、この街にいるのですが」
「そうか……あんたも俺のせいで目と耳がやられちまっただろ、悪かったな」
「いえいえ、お気になさらずに。スライムを倒すためですし。そんなことより、シャイナさんのその実力を見込んで、お願いがあるのですが」
「お願い……?」
俺が疑問を口にすると、そいつはにこやかに笑いながらうなずいて、
「ええ。実はいまサイクロプスの討伐クエストを依頼しているのですが、まだ二人しか集まっていなくて。それにシャイナさんも参加していただけたら、と」
サイクロプスの討伐依頼。あれを依頼していたのが、こいつだったのか。
俺はちらりと、隣でいまだにへたりこんだまま俺たちの会話を聞いていた受付嬢のほうを見てから、
「悪いな。俺はFランクだから、そのサイクロプスの討伐には参加できねえんだ」
「Fランク⁉」
俺のその言葉に、緑髪の男は見るからに驚愕した顔を浮かべて、目を大きく見開いた。そして、あはははと高らかに笑って、
「ご冗談を。それだけの実力がありながらFランクなわけないでしょう。Sランクの間違いですよね」
「いや……事実だ」
「は……?」
そいつはハトが豆鉄砲を食らったような、信じられないという顔をする。
そんな反応はいつもならテキトーにスルーするんだが、いまは、さっきの閃光と衝撃音のことも相まって、俺はどことなく気まずい思いになった。
緑髪の男は納得いかないというように、
「信じられない。まさかこんな逸材がFランクに甘んじているとは……。いったいランク試験官たちは何をしているんだ……!」
「いや、そいつらはべつに悪くは……」
俺の言葉など聞こえていないというように、そいつは言った。
「とにかく! シャイナさんには是非ともサイクロプスの討伐に参加していただきたい。依頼内容にもランク指定はしていませんし。あなたがいれば、サイクロプスなど簡単に討伐できるでしょう!」
「いや、だが……」
俺はもう一度、隣にいる受付嬢に視線を向ける。
参加してはダメです! と、彼女にさんざん言われた手前、ここで首を縦に振るのは……。
俺がそう思っていると、緑髪の男は俺の隣にへたりこんだままの受付嬢のほうを向いて、
「ギルドの受付嬢さん!」
「は、はひ⁉」
いきなり呼び掛けられて、紫ポニテの受付嬢が声を裏返させた。
「な、なんでしょうか⁉」
「あなたからもお願いしてください! あなたも先ほどのシャイナさんの強さは見たでしょう⁉ 彼ならサイクロプスの脅威から人々を守れるんです!」
「えっと、あの……」
「クエストの依頼主である私が言ってるんだ、反対する理由はないでしょう!」
「その、えっと……」
どう返事をすればいいのか戸惑っている様子の紫ポニテ受付嬢が、ギルドのなかで俺たちの成り行きを見守っていた他の受付嬢や職員のほうに顔を向ける。
判断を仰ごうとする彼女に、他の受付嬢や職員はうんうんとうなずき、上司と思われるおっさんもこくりと首を縦に振った。
それらを見て、紫ポニテ受付嬢は緑髪の男に顔を向けると、
「わ、分かりました。ティムさんが依頼したサイクロプスの討伐クエストに、シャイナさんをエントリーいたします」
「ありがとう、受付嬢さん!」
本当にうれしかったのだろう、緑髪の男は拳を握ってガッツポーズした。
……なんか、クエストにエントリーすることがこんなに大げさなことになるとは……。
……とにかく、決まったからには、今度こそ味方を巻き込まねえように注意しねえと……。
その後、ギルドの受付で正式にクエストへのエントリーを済ませると、俺はティムの持つ指輪型の空間魔法具で、他のクエスト参加者の待つ場所まで行くことになった。
「それでは行きますよ、シャイナさん」
「その前に、ちょっと待っててくれ」
「なにか?」
「ちょっとな」
俺はギルドの受付の向こうで、立ちながらこちらを見守っていた紫ポニテ受付嬢の元まで向かい、
「言い忘れていたんだが」
「は、はひ⁉ な、なんでしょうか⁉」
「もしかしたら、さっきの俺の魔法のせいで、街の誰かが体調を崩しているかもしれない。できる限りでいいから、街の様子を見て、そういうやつがいたらヒーラーを呼んでおいてくれ」
「わ、分かりました! こ、この命に代えても!」
「いや、そこまで気負う必要は……」
「あ、そ、そうでふよね!」
噛んだ。
やはりさっきの閃光の影響が残っているのだろうか、目の前の紫ポニテ受付嬢はどこか落ち着かない様子でそわそわしていた。
「あんたもヒーラーに見てもらったほうがいいかもな」
「へ?」
「とにかく、頼んだぞ」
「は、はひ!」
一応、近くにいた彼女の上司のおっさんにも目を向けると、了解したというようにそのおっさんは力強くうなずいた。
用件が済んで、俺はティムの元に戻る。
「さあ、行くぞ」
「では……」
ティムが指輪をはめた拳を自分の身体の前に持ってきて、魔力を込め始める。俺たちがいる床に淡く輝く魔法陣が浮かび上がり、俺たちの身体がその光に飲み込まれようとしたとき、
「あ、あの! わたしも言い忘れてました! さっきは街のみんなを助けていただいて、本当にありがとうございます!」
俺の背中に紫ポニテの声が響いてきて、
「気にすんな」
背中越しに手を振り返して……そして俺たちは目的の場所に向かっていった。
1
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる