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第百二十六話 主従の契約
しおりを挟む「はっ! スキルとどこが違えんだよ!」
スキルのなかにも対象を拘束するものはある。またサポートアイテムにも同様の効果を持つものも存在する。
彼の言葉に、悪魔は得意気に笑みを広げた。
「フフン。まったく違う。お主らのスキルは一人一人個性がある代わりに自身が出来る範囲は限られておる。剣のスキルでは槍を扱えない、とかのう」
人差し指を左右に振りながら悪魔は言う。まるで講釈を垂れる教職や先達のようだった。
「だが魔力はもっと汎用性が高いのじゃ。剣の形にも出来るし槍にも出来る。己や物体を強化出来るし、このように対象を束縛する拘束具にも出来る。使う者の想像力次第で無限大の可能性があるのじゃ」
そして悪魔は彼のことを見下ろしながら。
「無論、魔力と魔法にも弱点はあるが、それをいま教えるほど我輩は阿呆でも傲ってもおらん。ただ言うことは、魔力も魔法も扱えんお主らに我輩を倒すことは出来んということじゃ」
「…………っ」
悪魔の言葉を証明するように、いまのルタの身体はまさに指一本動かせない状態にあった。うつ伏せになった背中の上にかなりの重量を感じているため、おそらく大量の魔力で全身を地面に押し付けているのだろう。
(まるで漬け物石の下敷きになってる野菜の気分だぜ……)
ついそう思ってしまったが、冗談を言っている余裕はないだろう。悪魔がその気になれば、いまこの瞬間に彼を押し潰せることになるのだから。
勝利を確信した絶対的強者としての余裕があるからだろう、悪魔はニヤニヤしながらカエルのように地面に押し付けられている彼に言った。
「どうじゃ、我輩とちょっとした取引でもせんか?」
「なん……だと……?」
「お主をいま殺すのは惜しい。もし我輩の召し使いとして手足のごとくこき使われるのであれば、命を助けてやってもよいぞ。主従の契約じゃ」
「…………、はっ!」
バカにしてんのか⁉ とでも言いたげな声をルタは発した。
「死んだら魂ももらいますってか」
「かっかっかっ。人間の書物にはそんなことも書かれているようじゃな。無論、それを条件に出す悪魔もいる」
「否定しねえってことは、てめえもそうするつもりなんだろうが」
「さあ、どうじゃろうな。お主を真に気に入れば、死後の魂を愛でてやってもよいがのう」
「誰がてめえなんかに」
やれやれと芝居がかったように悪魔は肩をすくめると、またニヤリとしながらルタのことを見下ろして。
「残念じゃな。それじゃあ死ぬがよい」
彼へと手をかざす。その瞬間ルタの上に乗っていた重みが強くなっていき……押し潰そうとしたとき、ルタもまた不敵な笑みを見せた。
「どうして俺がてめえなんかの話に付き合ったと思う?」
「何?」
「俺に乗ってるこの魔力は、目には見えねえが実体はあるってことだ。だったら、俺のスキルでなんとかなる」
言いながら、グググとルタは全身に力を込めて、押し潰してくる魔力を押し返してゆっくりと立ち上がっていく。
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