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第百二話 偶然が過ぎている

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 通り魔の手掛かりを探す一環として失踪者リストを見ようとした。しかしそれはできなかった。
 だから失踪者リストを見るために、彼が体験した失踪事件を調べるという名目……建前で申請することにした。
 そのため、本来は最近の通り魔事件とこの失踪事件にはなんらの関連性もないはずだった。……そのはずだったのだが。

(……まさかね……)

 そんなことはないはずだ、と思う。もしそうだとすればあまりにも偶然が過ぎていると。彼の周辺で起きたこととして。
 だから、やはりこの二つの事件の間にはなにも関連性はないはずだと思うことにした。ただ単に一時的な話題に上ってきただけなのだと。

「んじゃ、また昨日みてーに途中まで送ってっか」

 ロウが気が付いたとき、二人は店の前の道にいた。考えごとをしていたからよく覚えていないが、どうやらいつの間にか食べ終えて、会計も済ませて退店していたらしい。

「あーあ、また昨日みてーに通り魔がやってこねーかねー」

 家路への道を歩いて、頭の後ろで手を組みながら彼がぼやく。

「そしたら今度こそ絶対に捕まえてやんのによ」

 確かに彼ならそうしかねない。そしてそれがある意味一番手っ取り早い解決法でもある。

「ま。そう上手くはいかねえだろうけどな」

 結論からいえば、その帰路において二人が通り魔と出くわすことはなかった。二人だけではなく、その他の人々においても、その日の被害者は現れなかった。
 通り魔は出現しなかったのだ。
 無論、誰も怪我をしたり死ななかったという点において、それは喜ばしいことではあるだろう。だが反対に、通り魔へと至れるかもしれない手掛かりが増えることにもならなかった。

「どっちが本当にいいことなんかねえ。新たな被害者が出ない代わりに犯人も見つからないのと、犯人の手掛かりを得られる代わりに新たな被害者が出ちまうの」

 道すがら、誰にともなくルタはつぶやく。その声に、やはりつぶやくようにロウが返す。

「……あたしは……被害者が出ないほうがいいです……そして犯人も絶対に捕まえる……」
「…………、ま、それが一番理想かもな」

 満天の星空が見下ろすなか。二人は無事にそれぞれの家路につき、その日も一日が終わっていった。
 翌日。朝九時過ぎ。ロウは自宅を出たあと官憲への道を歩いていた。

(そういえば、ルタさんと待ち合わせしてるわけじゃなかったな……忘れてたけど)

 通り魔の調査に進展があったわけではないが、昨日は多くの出来事を体験した。そのためか、今日官憲で失踪者リストの確認をすることについて、彼と待ち合わせなどの話し合いやスケジュール調整をうっかり忘れてしまっていた。

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