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第八十五話 魔物の肉
しおりを挟むなんかバカにされたような気がして、ロウは文句を続けた。
「そういうルタさんはどうなんですかっ⁉ 特売くらい行くでしょっ!」
「たまにな」
「たまに?」
何か含みのある言い方に、ロウとニーサが首を傾げる。
「俺はほら、エビルボアとか食える魔物の肉を調達してるから、クエストのついでに。……あ」
言ってから、ルタはしまったとニーサのほうを見る。彼女は口元に手のひらを当てて心底びっくりしている様子だった。
ニーサのその反応に、ロウもまた、あちゃー、と顔に手を当てている。なんでいまそれを言っちゃうかなー、という感じだった。
「……魔物の肉、お食べになるんですか……?」
ニーサが尋ねる。その顔は驚きが八割くらい、残りの二割は戸惑いの感情が表れていた。
まさか本当に……? 冗談じゃなくて……? そんなような心の声が聞こえてきそうだった。
「あー、いや、それはだな……」
そんなニーサに、ルタも奥歯にものが挟まったように口をもごもごとさせる。はっきりとしない、優柔な態度。
彼のその様子に、ロウのなかにムッとした気持ちがにじみ出てきた。自分にはなんでもないことのように言っていたくせに、どうしてニーサさん相手だと口ごもるのか……つい、そう思ってしまう。
だからなのか。
「そうなんですよ、ニーサさん。この人、魔物の肉を食べてるんです。びっくりですよね」
「おいっ⁉」「…………!」
にっこりと笑顔を張り付けてロウが言い、なんで言うんだよとばかりにルタが声を上げる。ニーサはというと、とにかくただただ驚愕していた。
「あんた……っ」
なにか文句を言おうとしているルタに、ロウは澄まし顔で。
「なにか? 本当のことですよね?」
「それはそうだが……なにもいま言わなくても……っ」
「いま言うもなにも、ルタさんが先に口を滑らせたんじゃないですか。自業自得ですよ」
「いや、確かにそうかもだけどよ……」
「だいたい、なんでニーサさんには教えたくないんですか? あたしには初対面のころからまったく隠さなかったくせに」
「それはその、まさかこう何度も会ったりするとは思わなかったから……」
「なんですか、それ?」
どこか不機嫌そうな顔になるロウと、珍しく困惑した様子のルタ。彼としてはそのとき限りの出会いであり、ここまで長い付き合いになるとは思っていなかったらしい。
初めて会ったときから、たった二、三日程度、いくつかの偶然が重なって一緒に行動しているだけなのに。
そしてまた、ロウ自身も不思議に思っていた。どうして自分は、こんなにもモヤモヤしているんだろう、と。たかだかこの程度のことなのに。
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