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第七十六話 ついていっていいですか
しおりを挟むニーサを不安にさせる可能性はあるが、いずれは知ることになるだろう……ロウはかすかにうなずく。それに、言わなかったら言わなかったで、なにがあったのかと不安を増させてしまうことにもなるかもしれないだろう。
ロウの応答を受けて、ルタはニーサへと説明し始めた。昨夜、自分達に起きた出来事を。
「実はな……」
そして今日、その実況見分を官憲とおこない、病院に情報を聞きに行き……このあとは最初の事件の現場を調べるつもりだったことを。
それらの話を聞いて、ニーサは終始、ええっ⁉ とか、そうだったんですかっ⁉ など、驚きっぱなしだった。
「…………まさかお二人がそんな事件に巻き込まれていたなんて…………」
話を聞き終えたとき、ニーサは口元に手を当てて、それ以上かける言葉が見つからないというような顔をしていた。
彼女の様子を見ながら、ルタはもう一度ロウのほうをチラリと見る。
「…………」
「…………」
彼の視線に、ロウもまたもう一度かすかなうなずきを返す。
いま話した内容は、あくまで犯人がただの『通り魔』だったときの話だ。つまり、もしかしたらプロの『殺し屋』であり、通り魔はカモフラージュで、ルタの命を狙っているのでは……といった憶測は話していなかった。
新聞では通り魔の事件としか書かれていなく、これはただの二人の憶測であり確証はない。下手に話して、これ以上ニーサを不用意に不安にさせることもないだろうと思ったからだった。
びっくりしたまま声を出せずにいるニーサを見つつ、ルタはベンチから立ち上がった。
「さて、と」
傍らに置いていたパンの紙袋を持ちつつ、ロウへと顔を向けて。
「そんじゃあ、最初の現場に行こうぜ。話も終わったし」
「え、ええ……」
心配そうな目をニーサに向けつつ、ロウもまた立ち上がる。不意の尾行者の正体がニーサだと分かった以上、次にするべきことは、当初の目的である調査の再開だろうから。
二人がニーサへと背を向けて、ルタを先頭に、少し後ろをロウが歩き始めたとき。
「あ、あの……っ!」
離れていこうとする二人へとニーサが声をかけた。二人が振り返ると、ニーサもまた立ち上がっていて。
「わ、わたしもついていっていいですか……っ⁉」
二人へとそう言った。
「へ……」「え……」
突然の彼女のお願いに、ルタとロウは不意を突かれたような声を出してしまう。互いに顔を見交わせてから、代表するようにルタが答えた。
「まあ、ついてくるだけならべつにいいけど……」
「ありがとうございます……っ!」
本当にうれしそうに、ニーサが腰を折って頭を下げる。
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