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第十一話 手が滑った
しおりを挟む「おいテメー、ちょっとオレと遊ぼうぜ。なーに、ワリーようにはしねーからよ」
「ちょっ、あのっ、やめてくださいっ!」
「いいから来いってんだよ!」
拒否の声を上げる彼女を、冒険者の男は無理矢理立たせて連れていこうとする。男の仲間達もニヤニヤしながら、
「おいおい、おまえ一人だけズリーぞ。オレ達も混ぜろよな」
「分かってるって。だがまずはオレだからな」
「まったく、オマエの女好きにも困ったもんだぜ」
「それはオメーらもだろーが。ガハハハハッ!」
そして彼女の手をつかんでいた男は、その腕に力を込めて。
「オラッ、モタモタしてねーでさっさと来いってんだよ!」
「痛いっ! やめてくださいっ!」
それらの様子をテーブル席から見ていたロウは、さすがに我慢しきれなくなって。
「ちょっ……!」
声を上げようとする。官憲が到着するまで、まだ時間が掛かりそうで、だからこそ自分がなんとか女性店員を守ろうとしたのだが……ロウが彼らになにか言う前に、彼女の顔の横をなにかが速いスピードで通り過ぎる。
それは一枚の平皿だった。この店の料理を乗せていて、いまはからになっている皿。
それがフリスビーのように回転しながら、高速度で冒険者達へと迫り、若い女性店員をつかんでいた男の手に直撃していった。
「いだッ⁉ なんだッ⁉ 皿ッ⁉」
驚いた声を上げて、男が女性店員の手を離す。その男を始めとして、仲間の冒険者達や女性店員、他の客やおやっさん、そしてロウの視線が平皿の飛んできたほうへと注がれる。
「あ、ワリーワリー、手が滑った」
そこにいたのは、悪びれた様子を一切見せずにひょうひょうとした顔つきのルタがいた。
彼は表情を笑わせながら自分の頭の後ろに手を当てて。
「いやー、すまんすまん。怪我してねーか、って大丈夫か。すっげー鍛えてるみてーだし、頭んなかまでぎっしり筋肉が詰まってるくらいに」
遠回しに脳筋だと言っているわけだが、冒険者の男が、
「あ⁉」
と荒げた声を出す。しかしルタは依然ひょうひょうとした笑顔を張り付けて。
「おっとワリー。詰まってんのは筋肉だけじゃなくて性欲もだったか。サルの発情期はもっと先かと思ってたんだけどな」
「テメエ……ッ!」
ビキビキと男の額に青筋が走っていく。見ず知らずのルタにバカにされたことで、男の仲間達も険悪な目付きで彼のことをにらんでいる。
男が背負っていた大剣の柄に手をかけた。
「テメエ、このオレにそんなナメた口をきいて、生きて帰れると思ってんじゃねーだろーなッ!」
「おーこわ。発情期の次は縄張り争いか? サルの世界も大変だねい」
「テメエッ! ブッ殺してや……ッ!」
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