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しおりを挟む☆side-he⭐︎
彼女がいなくなるかもしれない
駆けつけた病院の手術室の前で
震えの止まらない両手を壁に押し当て、必死で正気を保とうとするが
どうやってここまで来たのか
これからどうすればいいのか
なにも考えられないまま立ちすくんでいると
突然、後ろから肩を叩かれた
「落ち着きなさい、きっと大丈夫だから」
振り向いて顔をあげると
白髪で背の高い老紳士が、息を弾ませながら俺の手を取り力強く頷いた
「お義父さん…」
~数週間前~
「さっさと帰れよ」
例の件があってから
暇を見つけては我が家を訪れ彼女とすっかり打ち解けてしまったた桜井は、たいていは俺が留守の間に短時間だけ彼女とお茶を飲んだり娘と遊んだりしている様子だったが
その日はなぜか、夕方近くに帰宅した俺とリビングで鉢合わせた
「おかえりなさい、あなた。ちょうど良かったわ、日が暮れて来たし桜井さんを駅まで送ってあげたら?」
「はあ?」
彼女の思考回路はいったいどうなっているんだろうか
夫を寝取ろうとした女と友人になるだけでも信じられないのに、送って行けとはお人好しにもほどがある
「じゃあ、お言葉に甘えて玄関先まで」
眉間にシワを寄せた俺の心中を察したのか、桜井が苦笑いしながら玄関に向かう
「おじゃましました、また来ます」
「来なくていい」
冷たく言い放って追い返そうとした時、意味ありげな表情で手招きをされ外に出ると
「今もまだ、私たちの仲を怪しんでいる記者がいるんです。奥様と私が仲の良い友人同士だとわかればそのうち諦めると思いますから、しばらく我慢してください」
辺りを見回しながら小声で囁いたあと
「ところで、奥様は森崎五郎先生のひとり娘ですよね?」
「森崎?」
聞き慣れない名前が小説家である義父のペンネームだと思い出すまで数秒かかった
普段、本など読む習慣がないため義父の作品もほとんど読んだことがないせいだ
「それがどうした?」
「お世話になっている大学OBに以前、森崎先生の担当をしていた文芸誌の編集長がいるんです。森崎ご夫妻は40代半ばまでお子さんがいなかったのにある日突然、小さな女の子を娘だと言って紹介されて驚いた…と言ってたのを思い出して。奥様は森崎先生の養女なんですか?」
胸の奥に、鋭いガラス片が刺さったような痛みが走った
「その話、あいつにはしてないだろうな?」
「もしかして、奥様は養女だとご存知ないんですか?」
「もう2度と、ここへは来るな」
踵を返して家に入るとドアの鍵を閉め、子どもたちと彼女の笑い声がする食卓へと急いだ
※次回に続きます
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