スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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心細いときには、3

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「もう…食べられないかも」
 副島は手を止めているので、日和はそれをトレーに戻す。
「じゃあ、熱測って、薬飲みましょう」
「うん。ありがとう」
 副島は体温計を脇に挟んで、うとうとしている。そうとう辛そうだった。
 ピピっと電子音がして、確認してみると39.5℃だった。
「うわ、高熱!」
 処方箋を飲ませて、横にさせる。
「寝るまでここにいますね」
「…ごめんね」
「恋人なんですから当然ですよ」
 そっと副島の額に手を乗せて、日和は笑った。
「そんなふうに優しくされたら…、泣いちゃうよ…」
 頼りないと思うほどの声でそう言った。
「病気の時に看病してもらえるのって、こんなにうれしいんだな…」
 副島のしみじみとしたつぶやきが、胸に刺さる。
「これから、隆弘さんが具合悪くしたら、俺が看病しますからね」
「ふふ…、ありがとう。僕も、日和が具合わるくしたら、看病するからね」
「お願いしますね。…少し眠ってください」
「ごめん…、そうさせてもらうね…。日和も着替えてくつろいでね…」
 そういわれて初めて、自分がスーツ姿で看病していることに気づいた日和は、クローゼットの中にしまわれている自分用の部屋着を取り出した。
 着替えてからしばらくして、副島が眠ったのを確認すると、日和は寝室を出た。
 副島は、看病されるのが嬉しいと言っていた。
 その気持ちは、日和にもよく理解できた。
 子供の頃、冷遇されていた二人は、通じ合う部分が多いんだなと思う。
 ふと、スマホを手に取って、体調が悪いの時に適した食事を調べてみる。
「…料理…、出来るようになりたいな…」
 日和はそんな風に呟いてから、料理教室を検索してみると、副島とよくいくショッピングモールの中にある料理教室が、男性も大歓迎!と書かれている。
「……同僚にでも、聞いてみようか…」
 そんな風に時間を過ごしていると、あっという間に二時間ほど経って、寝室の扉が空く。
 日和は慌てて飛んで行った。
「あ…、日和いる…」
 日和が来た時より、少ししっかりとした足取りだ。
「いますよ…? 何か必要なものありますか?」
「あ、大丈夫、さっき飲んだ解熱剤が効いてるみたいで、今は少し楽だから。トイレに起きたんだ。…会いたすぎて幻覚見たか、熱にうなされて夢見たんだと思ってたから…いてくれて嬉しい」
「大丈夫です、ちゃんと現実ですよ?」
「…うん」
「そうだ。少し食べられそうですか? ゼリーとかありますけど」
「トイレ行ったら、少し貰おうかな」
「じゃあ、準備しておきます。あ、キッチン、勝手に借りちゃってます」
「いいよ。ありがとう」
 副島がトイレに向かったので、日和は買ってきたゼリーを冷蔵庫から取り出した。
 ゼリーを入れられそうな小ぶりの食器を手に取り、スプーンで取り分ける。
 先ほどのおかゆはほとんど食べられなかったので少な目によそい、残りはラップをして冷蔵庫へ戻した。
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