スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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心細いときには、1

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 正式に恋人になろうと、夜を共にしてから、多忙のあまり会うだけしかできずに1ヶ月が経過したある日。
「えっ?!」
 水曜の昼休み、副島からのメールに『風邪をひいてしまって、熱が高いから、週末は会えなくなっちゃった…。ごめんね』と書いてあり、日和は驚いて思わず声を上てしまった。
「いや…、だからと言って、はいそうですかと…いうわけには…」
 風邪だって、拗らせれば大変なことになる。誰かそばにいるに越したことはない。
 日和は、副島のところに看病しに行くことにした。
 上司に「パートナーが高熱が出ているようで、看病のために明日と明後日、有給を取りたい」と申し出てみた。
 周りの社員たちが、日和の口から『パートナー』という言葉が出たのに驚く。
 日和が自分から有休をとる事などほとんどなく、このままでは消化できないということで、あっさりと申請は降りた。
 上司の計らいで、定時ぴったりに上がらせてもらえた。
 副島のマンションの最寄り駅を降りて、マンションに向かう途中にドラッグストアがあるので、そこに寄り、経口補水液にスポーツドリンク、ゼリー飲料、レトルトのおかゆを買う。
 それから、予め冷凍された冷却枕を2つと、サージカルマスクを箱で買った。
 病院には行ったのだろうか。
 ドラッグストアを出たところで、日和は副島に『これからいきます。合鍵で入らせてもらうので、出迎えなどしないで大丈夫ですよ』とメールを入れた。


 副島の高級マンションの前にたどり着くと、日和はゴクリと唾を飲み込んだ。
 合鍵。
 以前に「いつでも会いに来てね」と、渡されたそれをここで使う。
 部屋番号を押して、鍵を差し込む。
 ほとんど力を入れることなく、鍵はカチャリと開き、すぐ横でオートロック付きの自動ドアが微かなモーター音とともに開いた。
 ぼーっと見つめていたが、慌てて鍵を引き抜くと、辺りを確認して中へ入る。
「…別に悪い事してるわけじゃないのに、なんでこんなに緊張するのか…」
 コソコソつぶやきつつ、エレベーターのボタンを押して、副島の部屋へ向かう。
 部屋の鍵を、ドアに差し込む。
 オートロックと同じ様に、鍵はスムーズに開いた。
 そっと扉を開く。玄関は灯りがついていた。中に入り、鍵をかけてから靴を脱ぎ、マスクをつける。
「…おじゃまします」
 声が緊張する。
 リビングに向かおうと靴を脱いでいたら、寝室の扉が開いた。
「ひより…」
 熱が出ているのが丸わかりの様子で、副島が出てきた。
「隆弘さん! 寝ててください…!」
 よろよろと日和のところにやってこようとするので、慌てて止める。
「うつる、って」
「大丈夫ですから、寝てて下さいっ」
 日和は寝室へ副島を押しやる。そして、キッチンを使う事に断りを入れた。
 副島の家の冷蔵庫は、大きかった。
 通いのハウスキーパーさんが食事のストックを入れてくれてあるが、食欲がないのかもしれない。
 冷凍庫に氷枕をしまい、冷蔵庫にスポーツドリンクや経口補水液を入れながら、副島の食事をどうしようかと考えた。
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