スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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突然のことで6

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 急に真剣な表情で、握っていた手を日和の手に重ねる。
「…もし、三上さんさえ良ければだけど…お試しってことで、僕と付き合ってみませんか」
「お…試し?」
「そう、お試し。期間は…そうだな、三カ月くらいでどうかな…? 三上さんが、どうしても恋人は嫌だって思ったら…、そこでおしまいにして、友達に戻るの。どう?」
「そんな…」
「…ほんの少しでも良いんだ。三上さんと、恋人として過ごしてみたい。すっごいワガママを言ってるのは解ってるけど…、三上さんと恋人になりたくて、必死なんだ」
 重ねられた手に、力がこもる。日和は、それに戸惑いしか感じない自分に驚いた。
 日和はずっと、恋愛対象は女性だったのに男に口説かれて不快に思わないなんて…、と戸惑うばかりだ。何よりこんなに求められた事など、一度も無い。日和はすでに、すっかり絆されている自分にも気づいていた。
 でも、こんなに誠実に気持ちを伝えてくれる人と、自分がダメだと思ったら振って良いなんて条件で、付き合ってもいいのかと考えていた。
「…俺…、副島さんと出かけたり話したりするの、すごく楽しくて、友達を失いたくないんです、正直」
「…そう…」
「でも…こんな風に…、俺なんかに誠実に気持ちを打ち明けてくれた貴方を、無下にもしたくないんです」
「…やっぱり、三上さんは優しいね」
「そんなこと無いです。気を持たせるような事するのも良くないって解ってます、でも…すぐには答えが出ません。…来週まで、返事を待ってもらう事は出来ませんか?」
 日和がそう言うと、副島はすこしうつむき気味に目を瞑って言った。
「解った。ただ…僕も出来れば、三上さんとの友人関係を切りたくないって思ってる部分もあるんだ。だから…」
「そうなんですね。ちょっと安心しました。でも…俺…ちゃんと考えますから」
「急に、ゴメンね」
 副島が名残惜しげに席を立ち、カウンターの中に戻ったので、日和は少し温くなったホットカルーアミルクを飲みながら、いま副島に言われた事を思い返した。
 グラスが空になるまで考えたが、やはり答えはそう簡単に出なかった。日和はそれ以上飲む気分になれず、会計を済ませようと立ち上がった。
「あっ…もう帰るの…?」
 副島の様子がどことなく寂しそうで、日和は一瞬罪悪感を覚える。
「はい。…家でちゃんと考えたいので…」
「そっか。…ありがとう、三上さん」
 微笑んだ副島は、やはりどことなく寂しそうで、日和は申し訳なさを感じながら会計を済ませて店の外へ出た。駅まで歩きながら、副島の言った事を再び思い返す。
 好きって、何だろう。友達ではダメなのか? 楽しく遊ぶなら、友達でも良いはずだ。友達ではダメだとしたら、何が副島に告白と言う手段をとらせたのだろう。
 そんなことを考えて歩いていると、あっという間に駅についてしまった。
 電車に乗って、家に向かう。途中のコンビニで軽くつまめるものとビール、翌朝の食事を買い、荷物をぶら下げて歩いていると、ちらほらと白いものが見える。
 明日が雪というのは外れたようだ。
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