スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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突然のことで4

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 副島がそう口にした途端、何か、空気が変わったような気がした。どう変わったのか、日和には正確には言い表せないけれど、逃げ出してしまいたいような、そんな濃密な空気が流れているような気がしたのだ。
「…副島、さん…?」
 日和が訝し気に首を傾げると、副島は唇をゆっくりと弓形にして、目を細めた。
「…僕だったら、三上さんにそんな思いさせないのにな」
 日和は、副島に言われたことを理解できなかった。どういう事なのか考えている内に、副島がぐいっと近づいて来る。
「ごめんね、三上さん。僕…君を好きになったみたいなんだ」
「…えっ…?」
 好き、というフレーズが、何度も日和の頭を回る。言葉として理解も出来るし、意味も解るのに、どうしてそんな事を言われるのかだけが、日和には解らない。
「…そ…れは…」
 日和が目をぱちくりとさせながら聞き返すと、副島は痛そうな表情を浮かべた。
「…気のせいって思おうとしたんだけど、やっぱりそうじゃなくて、これは…恋なんだなって…ごめんね」
 恋だなんて。
 ごめんね、なんて。
 日和は盛大に動揺した。まさか、この、モテ男を絵に描いたような男が、よもや自分に恋をしているなんて告白して来るなんて、欠片も思っていないからだ。
「こ、…恋だなんて」
「うん。…ごめんね」
「いや、謝らなくて良いです、副島さんは、なにも謝るようなこと、してないっ…!」
 思わず声を荒げた日和に、副島は驚いていた。
「すみません、大声を」
「いや、いいよ。…突然こんなこと言って、三上さんを困らせただろうなと思って謝ったんだ」
 困るに決まっている。
 しかも何故、恋愛の失敗談を聞かせたあとにそんなことを言うんだ。同情か? 日和は混乱しながらそんな事を思う。
「…俺に、人から好かれる要素なんて無いと思っているので、驚きはしました」
「さっき僕が好きな人の事話したら、そんな風に評価される人って、よほど素敵な人なんだなって思いますって言ったじゃない?」
 そう言われて、日和は首を振る。
「それは…俺の事だなんて思ってなかったからです。俺は副島さんにそんな風に評価してもらえるような人間じゃありません。相手に好かれるように努力しても、つまらないなんて言われて振られるような男ですよ」
「それはただ、相手に見る目が無かったんだよ」
「…そんな事無いと思いますよ」
「僕には、三上さんがすごく魅力的に見える」
「…俺の事知らないからです。きっと…、副島さんも俺をつまらないって言う日が来ます」
 日和がそう言うと、副島は微笑んだ。
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