スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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突然のことで3

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 普通に振られるより浮気されたあげくに相手に盗られるなんて嫌だと思います。と日和が言うと、副島は日和の手元にビスケットを出しながら、
「僕の好きになった相手がね、真面目で誠実で…素直で傷つきやすくて、人の気持ちを推し量ろうと努力する人だから…。最低限、僕もそのラインに立ってからじゃないと…って思ったんだ」
 副島が、少し目を細めて、日和を見ていた。
「副島さんにそんな風に評価される人って、よほど素敵な人なんだなって思います」
 副島は、出来上がったホットカルーアミルクを日和の手元に置きながら、少し寂し気に笑った。
「うん。素敵な人だよ」
 臆面もなくそう言われて、日和の方が照れてしまう。副島はカウンターの外へ出てきて、日和の隣に座った。
「…三上さんのさ、彼女の事教えてよ」
「居ませんよ?」
「うん、それは聞いた。前の彼女の事、かな」
 どうしてそんな明らかに面白くなさそうな話を聞きたがるのか、日和は不思議に思った。
「面白くないと思いますけど、良いんですか?」
 と言うと、副島に聞いてみないと解らないでしょ? と返されたので、ぽつぽつと話をした。
 初めてのデートは、彼女が見たがった恋愛映画だったこと、水族館に行きたいというから連れて行ったこと、誕生日にお金を必死に貯めて月給分くらいのブランド物のカバンをプレゼントしたこと、次のデートの時にそのカバンを嬉しそうに使ってくれていたのがとても嬉しかったこと。
 そして二十八の誕生日目前に「つまらない」と振られたこと。
 副島は日和の話にうんうんと頷いて、時折相づちを打ちながら聞いてくれた。
「もともと…恋愛に興味が無くて、好きって言われたから、じゃあ付き合ってみようかなって思って…。でもそのうちに、このまま彼女と一緒に過ごせたらいいなと思ったから俺なりに努力してたんですけど、それをつまらないって言われたもので、それっきり面倒くさくなってしまって」
 日和の苦笑いとは対称的に、副島は痛みを堪えるような複雑な表情を浮かべていた。
 それを、つまらない話を聞かされたと副島が気分を害したと思った日和は、慌てて謝った。
「すいません、やっぱり…あんまり面白い話じゃなかったですよね」
「いや、そうじゃなくて…」
 副島は首を振って、日和の言葉を否定した。
 そして、まだ複雑な表情のまま、
「すごく勿体ないよ、それ。三上さんの恋愛がそれっきりでしかも初めての彼女がそれって、本当にもったいないと思う」
 そう言った。
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