スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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浮かれているかもしれない3

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「すごいなあ。僕は勉強嫌いでねぇ。授業中にやる小テストとか、白紙で出したことあるよ」
「白紙でですか?!」
「そう。僕ね、ひねくれものだったから」
 恥ずかしいな、と笑った副島は、今まで自分の周りには居ないタイプの人で、やっぱりあの時助けたりしなければ、こうして関わらない人だったんだな、と日和は思った。
「あ、次で降りるよ」
 そう言われたのは、副島のバーがある駅だった。
「…ここで降りるなら、こっちで待ち合わせしたらよかったんじゃないですか? 二度手間になるのに…」
 そう言った日和に、副島は少し首を傾げて、
「まあ、うん。…何となく、この方がいいかと思っただけで。まあ、良いじゃない」
 と笑った。
 何となくその笑顔にはぐらかされるまま、電車が止まったので降りて、駅から直結のショッピングモールに向かった。
 五年ほど前に再開発で駅前に出来た大型のショッピングモールは、さすがに日曜日とあって家族連れや子供たちでにぎわっていた。
 副島は店で使うコースターやグラスを磨くための布なんかを見に来たという。
 横に並んで歩きながら、電車に乗る前からずっと感じているすれ違う視線に、日和はすこし疲れてしまった。こんなに無遠慮に見られる事なんて、今までほとんどなかったからだ。
 しかし、品物を見ながら、あれこれ悩んでいる副島の様子を眺めるのは楽しかった。自分には趣味がないから、好きなものを楽しむ人を見るのが新鮮だったのだ。
「あっ、ごめんね、僕ばかり夢中になっちゃって!」
「大丈夫です。副島さんの様子眺めてるの、面白いので」
「なにそれっ、僕そんなに面白い事してないでしょ?」
 困ったように笑うので、そうじゃなくてと、先ほど考えていた事を伝えると、今度は少し悲しい顔をされた。
「…小さいころから、あんまり好きなものとかないの?」
 思い出しても、思い当たらない。
「そうですね…」
「そっかぁ…。僕なんか、あれもこれもってタイプだったからなぁ…」
 そこで、ふと思い出す。
「そういえば…小学校の…四年? 五年生くらいまでは、絵を描くのが好きでした」
 日和がそう話すと、なぜか副島の顔がぱっと明るくなる。
「そうなんだ! どんな感じで描いてたの?」
「…ノートの使わなくなったページとかに、鉛筆で昆虫や植物を描いたり…って感じです」
 話をしながら、日和はその頃のことを少しずつ思い出した。勉強の息抜きにちょこっと絵を描いているのを、母親に見つかって酷く咎められた。
 美術なんて社会に出たら役に立たないとかなんとか言われて、そんなつもりは無かったのにこっそり描くのも気が咎めて、それから絵を描くことをしなくなった。
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