スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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日常が波立つ4

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「大丈夫ですよ」
 日和は素直に驚いた。実は、心のどこかで社交辞令を本気にしてはいけないと思っている節があったからだ。本当に昨日の今日で誘いが来るなんて思っても無かった。
 電話の向こうで、副島が笑った。
『即答だね』
「ええ、無趣味で友人もほぼいないので、土日はいつも暇なんです」
『またそんな事言って~。それで、どこか行きたいトコとか、ある?』
「…すぐには思いつかないですね…。副島さんは、なにかありますか?」
『ンー、実はノープランなんだよね。急に僕の時間が空いたから、三上さんは空いてないかなーって掛けちゃったから』
「そ…れは、光栄です…」
『そんな、大袈裟だよ~。それでさ、なんか行きたいところとか思いついたら、メールしてよ。僕も何か考えておくから』
「わかりました」
『ごめんね、お店開けちゃってるから、あわただしいけどこれで。明日、よろしくね!』
「はい、楽しみにしてます」
 家までもう少しの所で、電話が終わった。
 通話が切れたスマホを見つめて、
「…副島さん、仕事中にかけて来たのか…。まだ空いたばっかりだから、お客さん居なかったのかな…?」
 ここ最近、昔からの友人たちも結婚したり仕事が忙しかったり、転勤していたりして出かける事があまりなかったから、日和は少し浮かれているのかもしれないと思う。
「…あ、洋服…」
 初めて会った時に副島が着ていたたスーツは、どこかのブランド物だった。容姿が整った副島は、きっと私服もオシャレなのだろう。日和といえばオシャレに興味が全くないので正直、人と出かけられるような洋服が無い。
 副島のようにTシャツにジーパンでもモデル並みになってしまうような容姿の整ったオシャレな人に隣に並ばれたら、ただでさえ地味で目立たない自分は、みすぼらしいことこの上ないぞ…。と思いながら、家に入る。
 日和は、買ってきた荷物をテーブルに置いて、無いと解っているのにタンス替わりに使っている衣装ケースを開ける。
 靴下と下着の他は、ちょっと買い物に行く用に買った白・黒・紺のTシャツに、白と紺のポロシャツ、ジーンズが二本と、ベージュと紺のチノパンが一本ずつ…。
 それらを眺めながら、日和は自分に言い聞かせるように、
「今まで、必要なかったんだから仕方がない」
 まだ店は開いているが、おしゃれに興味がないのに闇雲に店に飛び込んだところで、何も変わり映えしないものを買ってきて結局同じ事になるのは目に見えている。
 だから、明日はダサい日和を連れまわすことになってしまった副島には諦めてもらおう! と、そこまで考えて、日和は猛烈に急に恥ずかしくなった。
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