スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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お言葉に甘えて6

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「いやー、私に会社勤めは無理ですね。いま店やれてるのだって、奇跡みたいなものですよ」
 何か言おうとしたが、先ほどの笑顔が引っかかって言葉が出ない日和に助け船を出すように、副島の後で動いていたトースターがチンと鳴った。
「はい、どうぞ」
 出された皿は、こんがりと焼けたガーリックトーストが乗っていた。焼けたバターと、ガーリックの香りが食欲をそそる。
「これも個人的な好みなんですけど、シャンディガフには、ガーリックトーストがおススメです」
 何となく、話を遮られたような気がしたけれど、もしかしたら聞かれたくないような事を聞いてしまったりしたのかもしれないと思いなおして、日和は出されたガーリックトーストを齧って、シャンディガフを飲んだ。
 それからはなるべく他愛もない世間話をしながら、シャンディガフの二杯目をお代わりした日和は、すっかりいい気持になってしまった。
 会社の飲み会では、上司や同僚に酒に弱い事をからかわれることはあったが、副島は仕事中だからか、そんな素振りは見せず、最後に、レモンを浮かべたミネラルウォーターを出してくれた。
「すいません…。そんなに飲んでないつもりだったんですけど…、楽しくて回ってしまったみたいで」
「私も、久しぶりに楽しかったので、つい話し込んでしまって」
 冷たい水とレモンの風味が口の中をスッキリさせてくれたので、ふわふわした感じはだいぶ収まっていた。
「…美味しかったです」
「よかった」
 そろそろ帰ろう、と財布を取り出すのにポケットに手を入れると、
「お代は結構ですよ。お礼ですから」
 と、止められてしまった。
「でも…」
「…それなら…、また、来て下さるとうれしいです」
 副島は、そう言いながら少し困ったような表情を浮かべていた。
「どうかしましたか?」
 何か言いたげで、何となく煮え切らないと言った様子の副島は、視線を泳がせたり、頭を掻いたりしながらしきりにポケットに手を入れたり出したりしている。
「いえ…いや、あの…良かったらこれ」
 意を決したような表情で、ポケットから取り出した何か、名刺くらいのサイズの紙を渡された。見てみると、ボールペンで何か書いてあった。
「これ…プライベート用の携帯の番号とアドレス…です。こういう事するとヘンな意味に取られるかなと思って、迷ったんだけど…」
 真意がわからなくて、日和は貰った紙と副島の顔を交互に見てしまう。
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