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お言葉に甘えて5
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「あんなところで行き倒れていた僕に、このご時世に声をかけてくれて、その上、家に上げて休ませてくれるような優しい人は、なかなか居ない。その優しさと素直さは、美徳だよ。自信もって良いと思う」
仕事用の口調じゃないそれで、正面から褒められて、日和はどう返事をしていいのか、恥ずかしくてたまらなかった。
「…いえ…あの、そんな…俺なんか…」
「おっと、そこで謙遜されると、僕に人を見る目が無いという事になってしまう。そういう時は、ありがとうございますって素直に受け止めて欲しいな」
「…っ、ありがとう、ございます」
「うん…良かった」
「え?」
「僕を助けてくれた人が、三上さんみたいに良い人だったから、知り合いになれて、良かったなって」
副島の笑った顔は、あの時見た少年の様な笑顔だった。
「あっ…仕事モードすっぽ抜けてる。恥ずかしいな、はは…っ」
穏やかに微笑んでいる様子は、この店の雰囲気に似ていて、どこか落ち着けるものだと思った。
「どうですか、パナシェ。もう一杯同じのにします? それとも、違うのも試してみますか?」
「はい、あの、すごく飲みやすくて美味しかったので、ハマりそうです。せっかくなので、別の物も試したいなって思うんですけど…、あまり強くないヤツで…」
きっと、他のカクテルもおいしいものがあるのだろうと思うのだけれど、あまりたくさん飲めないので困っていると、
「じゃあ…今度は同じビールベースで、ジンジャーエールで割った、シャンディガフっていうカクテル試してみますか?」
日和の前からタンブラーを下げながら、副島がそう聞いて来た。
「はい、お願いします」
新しいグラスに、またビールを注ぎ、今度はジンジャーエールが注がれていく。
「パナシェもシャンディガフも、場所によっては同じ名前で呼ばれるものなんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。でも味が違うので、うちでは別の物としてお出ししてるんです」
新しいコースターに、さっきとは少し形の違うグラスが置かれた。今度のカクテルは、パナシェより少し色が濃い気がする。
「そういえば…、副島さんはこのお店長いんですか?」
「バーを始めたのは、四十になってからだから、もう五年ですね」
「へえ…すごい」
副島は照れたように笑って、手元で何か作業をしていた。こうして、他の事をしながら話をされるが嫌な人もいるかもしれないけれど、間が持たない日和にとっては有りがたい事だった。
「三上さんは? お仕事始めてもう長いんですか?」
「二十歳から同じ会社で働いてます。総務で働き始めたのは二十一の時ですけど…」
「へえ、すごい。同じ会社にそんなに長く勤めるって、このご時世なかなかできないですよ」
「副島さんなら、うちの会社で働いたらすごく慕われる社員になると思いますよ」
ふと見た副島の笑顔は、それまでと違い、目元が少し寂し気に感じた。日和は言ってはいけない事を言ったかと焦ったが、副島の表情はすぐに戻った。
仕事用の口調じゃないそれで、正面から褒められて、日和はどう返事をしていいのか、恥ずかしくてたまらなかった。
「…いえ…あの、そんな…俺なんか…」
「おっと、そこで謙遜されると、僕に人を見る目が無いという事になってしまう。そういう時は、ありがとうございますって素直に受け止めて欲しいな」
「…っ、ありがとう、ございます」
「うん…良かった」
「え?」
「僕を助けてくれた人が、三上さんみたいに良い人だったから、知り合いになれて、良かったなって」
副島の笑った顔は、あの時見た少年の様な笑顔だった。
「あっ…仕事モードすっぽ抜けてる。恥ずかしいな、はは…っ」
穏やかに微笑んでいる様子は、この店の雰囲気に似ていて、どこか落ち着けるものだと思った。
「どうですか、パナシェ。もう一杯同じのにします? それとも、違うのも試してみますか?」
「はい、あの、すごく飲みやすくて美味しかったので、ハマりそうです。せっかくなので、別の物も試したいなって思うんですけど…、あまり強くないヤツで…」
きっと、他のカクテルもおいしいものがあるのだろうと思うのだけれど、あまりたくさん飲めないので困っていると、
「じゃあ…今度は同じビールベースで、ジンジャーエールで割った、シャンディガフっていうカクテル試してみますか?」
日和の前からタンブラーを下げながら、副島がそう聞いて来た。
「はい、お願いします」
新しいグラスに、またビールを注ぎ、今度はジンジャーエールが注がれていく。
「パナシェもシャンディガフも、場所によっては同じ名前で呼ばれるものなんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。でも味が違うので、うちでは別の物としてお出ししてるんです」
新しいコースターに、さっきとは少し形の違うグラスが置かれた。今度のカクテルは、パナシェより少し色が濃い気がする。
「そういえば…、副島さんはこのお店長いんですか?」
「バーを始めたのは、四十になってからだから、もう五年ですね」
「へえ…すごい」
副島は照れたように笑って、手元で何か作業をしていた。こうして、他の事をしながら話をされるが嫌な人もいるかもしれないけれど、間が持たない日和にとっては有りがたい事だった。
「三上さんは? お仕事始めてもう長いんですか?」
「二十歳から同じ会社で働いてます。総務で働き始めたのは二十一の時ですけど…」
「へえ、すごい。同じ会社にそんなに長く勤めるって、このご時世なかなかできないですよ」
「副島さんなら、うちの会社で働いたらすごく慕われる社員になると思いますよ」
ふと見た副島の笑顔は、それまでと違い、目元が少し寂し気に感じた。日和は言ってはいけない事を言ったかと焦ったが、副島の表情はすぐに戻った。
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