スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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驚きの落とし物2

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 時刻はもうすぐ二十二時も半ばを過ぎようというところなのに、こんな繁華街の外れのマンションのゴミ捨て場にいるのだから、もしかしたらヤバイ人かもしれない。ヤバイ人だったらどうしようか…。
 そう思いつつ観察していると、その人影はゴミをあさっているような様子もなく、ただ時折ゴソリと動いている。
 恐る恐る、近づいてみる。
 見た所、ゴミ置き場に血だまりが出来ているような惨劇の様子はない。となると、ただの酔っぱらいか。うすぼんやりとした街灯に照らし出されたのは、少し長めの茶色い髪に、高級そうなスーツと派手なシャツを着た、わりと大柄な男性だった。
 こんな所で寝ていたらまずいのではないか、と思ったのだが、起こした方がいいのだろうかと悩んでしまう。妙な事件が報道される昨今、事件に巻き込まれるのはゴメンだ。でも、明日の朝、目が覚めた時にこの人が死んでいたりしたら、後味が悪いどころの話ではない。
 日和は、意を決して声をかけることにした。
「…あの…、あのー…、こんな所で寝ていると…夏とは言え風邪を引きませんか…」
 声は掛けたが、日和は情けないほど声が出ていないため、男は目覚める様子はない。仕方が無いので、そっとゆすり起こす。
「ン…ッ?」
 うっすらと目を開けたように見えた。体調不良なら揺すったらまずいかと思ったので、今度は肩のあたりを叩く。
「あの、大丈夫ですか?」
 男性は眉間にシワを寄せて、ぼんやりと目を開けた。のそりと身体を起こしたその男性は頭を押さえて、
「あ…イテテ…、え…ここ、どこ…?」
 と聞いて来た。
 俺は最寄り駅の名を告げて、その近くのマンションのゴミ捨て場だと伝えた。
 頭を掻きながら、その人は周りを見渡して、本当にゴミ捨て場に居ることを認識してがっくりと肩を落とした。
「…うわぁ…ゴミ捨て場に捨てていくとか…酷い…」
「大丈夫ですか? 立てますか?」
「悪いねオニーサン、ご迷惑を…うっ…」
 立ち上がろうとする男性に手を貸そうとしたところで、その人の顔が一瞬歪んだ。
 咄嗟にその人は足元の排水口に向かってしゃがみ込んで、激しく咳き込みながら吐いてしまった。
「大丈夫ですか…?!」
 あまりに苦しそうな様子に、日和は思わずその背中をさすった。
 ひとしきり吐いた男性は青い顔のまま、
「あー…ヤバイやつかも…」
 とつぶやいた。
「救急車呼びましょうか」
「あ、いや、たぶんこれ…、そういうんじゃないヤツ…」
苦しそうに辛そうにしている人を目の前に戸惑うばかりで、日和は自分の対処能力のなさが悔しかった。
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