スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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日常は崩れないからこその日常2

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 そんなこんなで、早十三年。三十三歳になった日和は、各部署に迷惑をかけるようなミスもせず、特に華やかな活躍もしないまま、ただ粛々と職場の衛生環境が良くなるように清掃業者を吟味したり、大量に出るシュレッダーの紙ゴミをリサイクルしてトイレットペーパーにして卸してくれる業者との契約を押し進めたり、地味ながらも充実した日々を送っていた。
 八時三十五分。
 総務部の入り口に置かれた機械にIDカードをかざす。この社員IDはタイムカードの代わりだ。
 始業時間は九時からなので、あと十五分ほど部下たちはやってこない。
 総務部長は、すでにデスクでコーヒーを飲みながら社内報の最終稿を読んでいた。
「おはようございます、部長」
「おう、三上、おはよう。相変わらず元気ないな。今日、月曜だぞ?」
「…はあ…月曜だから元気が無いのだと思いますが…」
「三上ぃ、週の始まりに元気がないなんて、オレより十も年下なのに、オレ達の年代が言うような事言うなよ」
「ははは…」
 斎藤部長は豪快かつ、大らかな人である。失言が少なく、部下に慕われている。
 この大らかさに救われている部下たちは多い。ただ、少々雑談が長いのが玉に瑕なところだ。
 そんな上司との会話をやんわりと辞して、始業前のルーチンワークに入る。
 自分のデスクの上をダスターで拭き、それから給湯室へ向かう。
 食器棚の前の洗いカゴには、使用して洗われた来客用の湯飲みや急須、茶たくが置かれている。それらの備品も総務課の管理なので、中が茶渋で汚れていないか、茶碗のフチが欠けていたり、割れたりしていないかをチェックしてから食器棚に戻す。ヤカンでお湯を沸かしながら、フローリング用ワイパーで床を拭く。
 沸いた湯を保温ポットに入れて、茶葉の残量を確認するなど、全てを整えてから給湯室を出る。
 これが月曜から金曜までの毎朝の様子だ。
 日和は、今日も一日、どの部署の誰も大きなケガをしたり、事故をしたり、取り返しのつかないような大損害を出したりしない事を願って…、
「三上課長、すみません、営業部のコピー機がまた詰まってしまったんですが…!」
 と考えていたが、そう上手くは行かなかった。
 営業部の女性社員が、給湯室に血相を変えて飛んできた。営業部は気性の激しい人達が多いせいか、物の扱いが少々乱暴だ。
 備品は備品であって私物ではないし、総務から丁寧に扱ってくれと再三お願いしているのだが、面倒くさがられてあまり守られないために、営業部のコピー機は度々詰まる。
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