スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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驚きの落とし物3

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 二度目の波が来たのか、男性はまた激しく咳き込んだので、日和は再び背中をさする。
 よほど飲まされたのか、はたまた酒に弱いのか、大の男がこんなになっている状況に遭遇した事のない日和は、戸惑うばかりだ。
「…すいません、ほんとに」
 吐き終わってからも息苦しそうな様子に、居たたまれない気持ちを感じる。日和ポケットに入っているハンカチを取り出して、男性に差し出した。
「…あの、…もしよかったら、俺のマンションここなんで少し休んでいかれませんか? 必要なら、救急車とか呼びますから…」
 どうしてそんなことを申し出たのか、自分でもよくわからなかったけれど、困っている辛そうな人を放っておけなかった。
「ありがとう、でも、だめだよ。初対面の人間を簡単に家に上げたりしたら…」
 男性の言い分は最もだ。でも、手を貸せる状態で何もしないのは、どうかと思ったのだ。
「でも…そんな状態で、何かあったらと思うと…。あとその…、助けかかった手前もありますし…」
「まあ…途中で僕が倒れたり、何かあったりしたのニュースで見たりしたら、夢見悪いのは解るけどね」
 ふふっとその顔は、なんとなく少年のようで、不思議な人だなと思った。
「でも、僕が悪いヤツで、きみの家に押し込み強盗しようとしてたらどうするの?」
「どう見ても…、強盗しようとしている人の格好じゃないですし…。それに、体調悪い振りして吐いてまで人の家に入り込もうとするのは労力と結果が見合わないと思うんですよね…。っていうか、本当に強盗ならそんな事言いませんよ…」
「オニーサン、今時珍しいくらい良い人だねえ。止めて置いてなんだけど、正直、休ませてもらえるのはすごく有りがたいです。いいの?」
「ええ、もちろんですよ。お茶くらいしか出せませんけど、どうぞ」
 時折、表情をゆがめる様子が、更に辛そうに見えて、日和は部屋にその男性を案内した。
 本人も言っていたが、この人がこういう手口で他人に害を与える人だったとして、それはそれでもう仕方がない。運命には逆らえないものだと思って、諦めよう。そう思いながら部屋に入ってエアコンをつけ、洗面所に誘導する。
「吐いたから気持ち悪いでしょう? そこ洗面所なので、うがいしてください」
「すいませんね…ほんとに」
 男性は口をゆすいでいる間に、また吐き気を催したらしく、日和は慌ててトイレに案内した。そして、冷蔵庫から冷えたペットボトルの麦茶を取り出し、グラスに注いでテーブルに置く。
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