スローテンポで愛して

鈴茅ヨウ

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思わぬ再会3

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 正直…、突然の弟の登場で気が削がれたので帰ろうと思っていたのに、これでは帰るに帰れない。
 いやビールを出されたから帰れないのではなく、店主が不在ではお金を払う事が出来ないからだ。
 テーブルの上に置いて帰ってしまってもいいのかもしれないけれど、日向の登場は、別に副島が悪いわけではない。
 そこまでするのは子供じみているとさすがに日和も思う。
 仕方なく、日和は初挑戦の黒ビールを口にし、チョコレートをかじった。
 香ばしくてほろ苦い黒ビールと、甘くて滑らかなミルクチョコレートは良く合って、これの話を副島としながら飲みたかったな…と思った。
 そうして、日和がちびちびとビールを飲んで待っていると、それが半分になる頃、奥の扉が開いた。副島が戻ってきたのだと思ったら、やって来たのは…よりによって、日向だった。
「ごめんね~、オーナーが完全にお客さんに捕まっちゃってるから、代わりに寄越された」
「…会計してくれ。帰るから」
 半分ほど残っていたビールを一気に飲み干して、日和がポケットから財布を取り出していると、日向が慌て始める。
「ちょっとちょっと、引き留めておいてって頼まれたのにそれは困るよ」
「それで何で…、お前なんだよ」
「それは…、オーナーが、ちゃんと話してこいって言うから…」
 副島に言われたから来たのか…。と日和は溜息を吐く。副島には申し訳ないけれど、この件に関しては余計なことをしないでほしいと思ってしまった。
「俺には何も話すことは無い」
「…まあ、そうだろうけどさ…、一杯おごるから付き合ってよ」
「いらない、帰る。足りなかったら…今度払いに来るから」
 日和は無造作に財布から札を抜き取ってカウンターに置く。
 日向が少し寂しげな顔で溜息を吐いた。それはまるで、日和の態度に呆れたように見えたので、日和が突っかかろうと向かって行ったら、
「うーん、前々から好かれてないのは感じてたけど…そんなに嫌われてんのか、僕は。そこまで露骨にされると、さすがにちょっと…ヘコむよ」
 悲しそうな顔でそう言われて、日和は動きが止まってしまう。
「…っ、仕方…ないだろ。…お前と俺は水と油なんだよ」
「水と油なら、中になにかひとつ入れば、乳化するよね!」
 名案! みたいな顔をして言われて、イラッとしてしまった。まじめな話をしている時に変に茶化すのも、日向の悪い癖だ。
「そういう話をしてるんじゃない!」
「だって、水と油ならそうしたらいいんじゃないかなって思ったから」
 マドラーをぴんと動かして、得意げな顔の日向に、日和は更に苛立ちが募る。
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