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お言葉に甘えて4
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美味しいお酒とそれに合うつまみ、座り心地の良いイスに、お気に入りのタバコ。それで至上の贅沢を満喫しているような気分になってしまうのだから安上がりだな、と、自嘲的な笑みが口元に湧いてくる。
普段より少し早めにタバコをもみ消して、生ハムとチーズを口に放り込むと、ゆったりとそれを味わってから残りのパナシェを流し込む。
知ったばかりの幸せに浸っていると、ふいに視線を感じたような気がした。そちらに目をやると、副島がこちらを見ているのに気付いた。
「すみません、不躾に。いや、なかなかそんな風に幸せな表情してくださるお客様、いらっしゃらないので…つい」
「そ、そんなに顔に出てましたか…?」
日和が思わず手を顔にやりながらそう聞くと、副島は微笑みを浮かべただけだった。相当、表情に出ていたのだろう。
「普段は…表情が乏しいとか、よく言われるんです。だから、そんなにわかりやすい顔をしていたなんて…恥ずかしいです」
「この店が貴方のそういう一面を引き出せたのだとしたら、喜ばしいことですよ」
人当たりのよい柔らかな笑顔は、先日家で見たあの少年のような笑顔と少し違った。
「副島さん、お店でしゃべってる口調だと、この間の話し方よりずっと落ち着いてて素敵ですね」
「あ…はは、素を見られていると、こうして作っているのがそれこそ恥ずかしいですね」
はにかむ副島を見て、日和は先程の言葉を慌てて弁解する。
「あっ、別に素のままが素敵じゃないって訳ではなくて…!」
おたおたとする日和を見て、副島は微笑んだ。
「ありがとうございます。あの時も思ったんですけど、三上さんは本当に素直な人ですね」
「とんでもない…、空気を読むのが下手なだけです」
「そうですか? 私はね、空気って読むものじゃなくて…、作るものだと思うんです」
副島が、さりげなく灰皿を取り替えてくれた。
「作る…?」
「ええ。この店も、こういう空気にしたいって思って照明や調度品にこだわったんです。出すお酒もつまみも、作りたい空気に合ったものを出してこそ、空気が作れるんだと思うんですよね」
「…なるほど…」
店の中を見回すように視線を送る副島につられて、日和も思わず周りを見回した。
「それに…人付き合いが苦手って仰ってましたけど、それでもあなたは会社勤めをしてて、昇進もしているのだから、人の上に立つ空気を持ってるってことだと思いますよ」
「そうですかね…」
日和が思わず苦笑いを浮かべると、副島はハッとした顔になった。
「あ…っ、すみません、偉そうな事を…」
「あっ、いえ、そんな! …俺…あまり人から褒められることが無いので…なんか照れてしまって…」
気を使わせてしまってすみません、と言うと、副島は首を振った。
普段より少し早めにタバコをもみ消して、生ハムとチーズを口に放り込むと、ゆったりとそれを味わってから残りのパナシェを流し込む。
知ったばかりの幸せに浸っていると、ふいに視線を感じたような気がした。そちらに目をやると、副島がこちらを見ているのに気付いた。
「すみません、不躾に。いや、なかなかそんな風に幸せな表情してくださるお客様、いらっしゃらないので…つい」
「そ、そんなに顔に出てましたか…?」
日和が思わず手を顔にやりながらそう聞くと、副島は微笑みを浮かべただけだった。相当、表情に出ていたのだろう。
「普段は…表情が乏しいとか、よく言われるんです。だから、そんなにわかりやすい顔をしていたなんて…恥ずかしいです」
「この店が貴方のそういう一面を引き出せたのだとしたら、喜ばしいことですよ」
人当たりのよい柔らかな笑顔は、先日家で見たあの少年のような笑顔と少し違った。
「副島さん、お店でしゃべってる口調だと、この間の話し方よりずっと落ち着いてて素敵ですね」
「あ…はは、素を見られていると、こうして作っているのがそれこそ恥ずかしいですね」
はにかむ副島を見て、日和は先程の言葉を慌てて弁解する。
「あっ、別に素のままが素敵じゃないって訳ではなくて…!」
おたおたとする日和を見て、副島は微笑んだ。
「ありがとうございます。あの時も思ったんですけど、三上さんは本当に素直な人ですね」
「とんでもない…、空気を読むのが下手なだけです」
「そうですか? 私はね、空気って読むものじゃなくて…、作るものだと思うんです」
副島が、さりげなく灰皿を取り替えてくれた。
「作る…?」
「ええ。この店も、こういう空気にしたいって思って照明や調度品にこだわったんです。出すお酒もつまみも、作りたい空気に合ったものを出してこそ、空気が作れるんだと思うんですよね」
「…なるほど…」
店の中を見回すように視線を送る副島につられて、日和も思わず周りを見回した。
「それに…人付き合いが苦手って仰ってましたけど、それでもあなたは会社勤めをしてて、昇進もしているのだから、人の上に立つ空気を持ってるってことだと思いますよ」
「そうですかね…」
日和が思わず苦笑いを浮かべると、副島はハッとした顔になった。
「あ…っ、すみません、偉そうな事を…」
「あっ、いえ、そんな! …俺…あまり人から褒められることが無いので…なんか照れてしまって…」
気を使わせてしまってすみません、と言うと、副島は首を振った。
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