スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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お言葉に甘えて

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 本当は、月曜日に副島のバーへ行こうと思っていたのだが、仕事で面倒くさい案件が続いて、足が向かなかった。
そのままフェードアウトしても良かったけれど、あの後、彼がきちんと家に帰れたのか、病院で診てもらったのか、クレジットカードなどは無事だったのかという事も気になってしまった。それに、何となく一人でバーに行くという経験をしてみたくて、仕事をいつも通り定時に切り上げて、名刺にかいてある住所を頼りに副島の働いているというバーを目指した。
 名刺に書いてある住所は、職場の最寄り駅から二つ隣。日和の住んでいるマンションの最寄り駅からは三つ隣だ。その駅は、つい最近、駅の北側が大規模な再開発を行い、マンションやら高級スーパーが軒を連ねるようになった。反対の南側は昔からの居酒屋やスナック、カラオケボックスなんかが立ち並んで、北側の再開発が追い風となって繁盛している店が増えたようだ。
 日和は、慣れない場所にビクつきながら、店の看板を探していると…。
「お兄さん、一杯どう? 安くしておくよ!」
 居酒屋の客引きだ。
「あ、いえ、待ち合わせに遅れそうなんで…」
「いいじゃないスか、一杯だけ!」
 待ち合わせに遅れて良い訳がないし、仮に遅れていったとして、遅れたくせに酒飲んでたら余計に悪いだろう、と日和は胸の中で冷静にツッコミながら、むりやり振り切った。
 それから少し歩いたところ辺りにあるはずだが、住所の場所にあったのは、
「…ホストクラブ…FLOWER…?」
 日和は思わず、名刺と看板を交互に見てしまう。副島の働いているというバーはいったいどこに…? と辺りを見回すと、ホストクラブの横から、誰か出てきた。
 白いシャツにベストを着て、黒のスラックスと、短い丈の黒いエプロンを着けている、長身の男性。長めの茶髪は後ろでくくられているが、あれは…副島だ。
「副島さん…!」
 日和の呼ぶ声に気がついてこちらを向いた副島は、にこりと笑って手を振ってくれた。
「来てくれたんですね! 店の場所、すぐわかりました?」
「あ、いえ…。解らなくて困ってたところだったんです」
「あー、ここ、ホストクラブの隣だから、解りにくいってよく言われるんです。どうぞ、入ってください」
「ありがとうございます」
 店の入り口は扉二枚程で、中へ入ると、奥の方までカウンターが続いていた。
 柔らかい照明にブラウンとオフホワイトを基調にした、思った通りのおしゃれな店だ。
「こちらへどうぞ。 お礼する立場なのに呼びつけてしまってすいません。来てくれて嬉しいです。今日はお好きなだけ楽しんで行ってくださいね」
「ありがとうございます。あの後、ちゃんと帰れましたか? 病院とか…」
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