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六十話 最後の旅の始まり(その一)
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7時50分、名古屋発しらさぎに何の会話を交わす事なく二人の少年は、父親の実家より送られてきた座席チケットを確認しながら車両の奥へと歩みを進めていた。
「流石にゴールデンウィーク、混んでるよなぁ…」
とくに返事が欲しくて発した言葉ではなく、二人の周りの状況から思わず溢れた一言であった。
「悪いなぁ、重治……」
さもばつが悪いのか伊蔵智は重治に済まなさそうに苦笑いを浮かべた。
「何の、これぐらいは予想していたさ、智が悪いわけじゃないさ」
重治は眼前に見える特急しらさぎに乗り込む為に幾重にも折り重なるの人の波を見詰めた。
昨今、北陸新幹線の金沢へのアクセスにより北陸地方への観光は今までとは比べようの無いほど盛んになっている。
さて、なぜ重治と智の二人が、わざわざこの連休始めの混雑必然の名古屋駅に朝早くから現れたのかを説明しよう。
それは伊蔵智が今年の正月、父親の実家のある福井県へと両親の里帰りに付き合った事に始まる。
「よく来たのぉ、さぁさぁ、寒かろ寒かろ、さっさと入った入った」
ニコニコと笑顔を振りまくのは、智の父「高志」の母、智にとっての祖母さまにあたる。
智達が里帰りしている伊蔵高志の実家、この地は現在の福井県丹生郡越前町にある。さて、何故に現在とあらわしたのか、それは町村合併なる国をあげてのくだらないイベントが原因と著者の個人的思想ゆえ勘弁願いたい。
越前町と宣言される前、智達が現在いるその場所は、丹生郡織田町、そう、織田家の始まりと言われるその町である。
「おぉおぉ、智かぁ、大きくなったのぉ」
古くからある日本家屋の見本のような外観の奥の部屋から顔を覗かせたのは、智の祖父さまである才蔵であった。
智の父、高志の背丈は中肉中背、極々高志の世代では平均の体格と言って良い。
しかし、その高志の父親である才蔵はどうかと言うと、平均が170センチにいかなかった筈の世代にも関わらず、その年代の平均値よりも確実に10センチ以上の背丈があり、現在190センチに迫る智の身長と較べてもなんの遜色も感じさせない。
もちろんそれは、身長だけに限らず、すでに七十の年に差し掛かっているはずのその年齢を一切感じさせることはない筋肉の鎧を纏ったようなその体系からも智には身内ながらにも威圧のようなものさえ感じさせられる風貌を備えていた。
「爺ちゃん、相変わらず元気だなぁ」
「ふぁふあふぁ、わしから元気を取ったら何にも残らんのぉ、ふぁふあふぁ」
爺さまは、智の言葉を豪快笑い飛ばした。
智達家族がやって来たその夜、智そしてその両親、そしてその両親、つまりは伊蔵家3世代が夕食を終え、今ではまず見ることの出来ない囲炉裏を囲んでのんびりとくつろいだ時間を送っていた。
「智、それはそうと友達はできたかの?」
それは、なんの前振りも無い突然の爺さまからの言葉であった。
「流石にゴールデンウィーク、混んでるよなぁ…」
とくに返事が欲しくて発した言葉ではなく、二人の周りの状況から思わず溢れた一言であった。
「悪いなぁ、重治……」
さもばつが悪いのか伊蔵智は重治に済まなさそうに苦笑いを浮かべた。
「何の、これぐらいは予想していたさ、智が悪いわけじゃないさ」
重治は眼前に見える特急しらさぎに乗り込む為に幾重にも折り重なるの人の波を見詰めた。
昨今、北陸新幹線の金沢へのアクセスにより北陸地方への観光は今までとは比べようの無いほど盛んになっている。
さて、なぜ重治と智の二人が、わざわざこの連休始めの混雑必然の名古屋駅に朝早くから現れたのかを説明しよう。
それは伊蔵智が今年の正月、父親の実家のある福井県へと両親の里帰りに付き合った事に始まる。
「よく来たのぉ、さぁさぁ、寒かろ寒かろ、さっさと入った入った」
ニコニコと笑顔を振りまくのは、智の父「高志」の母、智にとっての祖母さまにあたる。
智達が里帰りしている伊蔵高志の実家、この地は現在の福井県丹生郡越前町にある。さて、何故に現在とあらわしたのか、それは町村合併なる国をあげてのくだらないイベントが原因と著者の個人的思想ゆえ勘弁願いたい。
越前町と宣言される前、智達が現在いるその場所は、丹生郡織田町、そう、織田家の始まりと言われるその町である。
「おぉおぉ、智かぁ、大きくなったのぉ」
古くからある日本家屋の見本のような外観の奥の部屋から顔を覗かせたのは、智の祖父さまである才蔵であった。
智の父、高志の背丈は中肉中背、極々高志の世代では平均の体格と言って良い。
しかし、その高志の父親である才蔵はどうかと言うと、平均が170センチにいかなかった筈の世代にも関わらず、その年代の平均値よりも確実に10センチ以上の背丈があり、現在190センチに迫る智の身長と較べてもなんの遜色も感じさせない。
もちろんそれは、身長だけに限らず、すでに七十の年に差し掛かっているはずのその年齢を一切感じさせることはない筋肉の鎧を纏ったようなその体系からも智には身内ながらにも威圧のようなものさえ感じさせられる風貌を備えていた。
「爺ちゃん、相変わらず元気だなぁ」
「ふぁふあふぁ、わしから元気を取ったら何にも残らんのぉ、ふぁふあふぁ」
爺さまは、智の言葉を豪快笑い飛ばした。
智達家族がやって来たその夜、智そしてその両親、そしてその両親、つまりは伊蔵家3世代が夕食を終え、今ではまず見ることの出来ない囲炉裏を囲んでのんびりとくつろいだ時間を送っていた。
「智、それはそうと友達はできたかの?」
それは、なんの前振りも無い突然の爺さまからの言葉であった。
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