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第一章「記憶あるのに個人情報なし」モブなオレ。

プロローグ「前世が生えてチートなし」そんなオレ。

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「テンプレ異世界転生ってなんだ?」いきなり頭に浮かんだ謎の言葉を考える。

 ネットの界隈で生まれたオタク理論。若者なら理解できて当然のイメージだ。
どこの誰が思いついた。いつから生まれた概念だろう――そもそもオレは誰だ?


『きっと来る♪ きっと来る♪』リメイクされた映画のテーマ。サビの部分だ。

 最初に受けたインパクトと歌詞にビックリ。キレイな声のヴォーカルだった。
強烈な衝撃を与えられた場面が印象にある。古井戸から手首で這いだすアイツ。

 バンド名に記憶がない……オレは誰だよ? 自分で語りながら理解できない。


 その瞬間……強いめまいに襲われた。同時に過去と現在の記憶が統合される。

「この天井……うちの子爵家。日本じゃないらしい」魔法が当たり前の世界だ。
あれだあれ。ちょっと前から流行りの小説。異世界なろう転生ってヤツじゃん。


 もちろん死後の世界で神さまに出会わない。トラックに引かれた記憶がない。
自分の前世は憶えていない。神さまにチートすぎる力を授けられた印象もない。


 それなりには整えられた部屋。ベッドで目覚めた幸運も子爵一族のメリット。
お約束の展開……軽くイメージする。それでもどこかの誰かに文句をいいたい。

 かなり辺境になる新興子爵家の長男に生まれた。未来が保証された貴族階級。
赤ちゃんプレイから少年時代まで完全スルー。かなり前に義務教育は卒業した。

 王都の魔法学校で高等教育を学んだ。平均的な成績で卒業したらしいモブだ。
いやいやいや。それなりに優秀らしい。ざまぁに展開しない過去でホッとした。

 悪役令息は性格的に厳しい。もちろん王子の傍でおべっかなんて向いてない。
この現実がゲームや小説の舞台。マンガ世界かもわからない。どうすりゃいい。


 この世界の基軸を考える。社会制度や歴史観。地政学は前世で学んだのかな。

 それと比較しても子爵家の立ち位置が微妙すぎる。かなり辺境で広大な土地。
他国と接する境界じゃないから敵はいない。はるかな先にある王都が国の中心。

 どこか呆然とした感覚に囚われる。あらゆる面で中途半端な子爵家のヤバさ。
それにも理由がある。過去ダンジョンからモンスタースタンピードが発生した。

 固有戦力を持たない領主軍は一気に瓦解。少数の高ランク冒険者が応戦する。
もちろん援軍到着までの被害は甚大だった。仲間の死を代償に領民を守りぬく。

 脳筋リーダー格「力が正義!」体力バカ。A級冒険者は現在の子爵家当主だ。
つまりオレのクソ親父になる。大量の二つ名を得た『英雄』らしさは感じない。


 性格の悪さに定評ある母も同パーティー。魔法使いと脳筋の子どもなんだよ。
それなりに魔法が使えるから強い。それでも王子さまを取りまく環境にいない。

 剣技と体術は周囲に鍛えられた。それでも近衛騎士で活躍できる力量はない。
この世界に差し迫る危機もない。どこかに悪い魔王が攻めてくる状況でもない。

 部屋の隅に設置の鏡台。身なりを確認すると凡庸すぎた。イケメンじゃない。

 魔法学校の記憶を思い返しても恋愛経験はない。貴族だけど婚約者がいない。
かつて傍にいた幼馴染。仮の婚約者だった少女は流行り病で儚くなったらしい。


 記憶に残る女の子と長く一緒にすごした。どこか漠然としたイメージがある。

 前世の夢幻か過去の記憶。映画みたいな『きっと来る』展開にならないよね。
「マジで困る」独り言おもらし。これからオレはなにをどうすりゃいいのかな。


 テンプレから離れすぎた異世界転生。全否定するような展開にビックリだよ。
ゲーム同様にモンスターはいる。魔物が徘徊する定番の場所は地下ダンジョン。

 王道のファンタジー展開なら戦争。そんな物語に展開しない。それがリアル。

 異世界全体の地形をイメージしてもあれだ。いくつかの広い大陸が存在する。
それでも地球のような大航海時代はない。陸続きで操船技術も発達していない。

「海賊王にオレはなれない」もちろん物語の主人公。その可能性は十分にある。
 この転生で目標がない。これからすべてを流れに任せるしかできないだろう。


 敵から世界を守ることもない。辺境子爵領を差配する父はバカみたいに強い。
おそらく三十代で精神と肉体の最盛期なんだ。オレにできることはなにもない。

 日本で働いた記憶がないから知識チートは無理だ。成り上がり展開も厳しい。
笑って生きるならアリだ。もしかするとオレ同様に転生者がいるかもしれない。

 そいつがチート能力を使えるならありがたいよ。配下として闘う状況でいい。
なんなら異世界すべて手に入れる。玉座を目指す絶世の美少女なら最高だけど。

 詳細な記憶がないからチートはできない。それでも同族みたいな意識はある。

 これは単なる妄想だけど転生者が悪人。犯罪者やテロリストの可能性もある。
それならそれで敵対して闘うはずだ。ヒーローじゃないから死ぬかもしれない。


 アッハッハと笑って楽しい余生をすごせれば満足。未来は誰にもわからない。

 中身の良し悪しは別にして若さと健康に力もある。精神的にはオトナだろう。
チートな能力はない。それでも明るく楽しみながら死ぬまで笑ってすごしたい。

 現代日本から転生した半端な記憶。かなり運命から嫌われた生末なんだろう。
自分になにかができるかわからない。それでも異世界で生きた証しは残したい。

 魔法学校で学んだ知識と生前の記憶であわせ技。ユニークな展開も悪くない。

 すべての魔法がイメージ次第と学んだ。これもテンプレ全開のファンタジー。
丹田になる場所だろう。へその位置を意識しながら体内魔力を循環させてみた。

 チート能力はない。それでも地球の記憶がある。指先から火を灯すイメージ!


「うぉっ?」なぜか学生時代より強大な火力。1メートルに達する炎に驚きだ。
魔法の炎は延焼するのかね。あせる気もちで腕を掲げる。制御の強いイメージ!

 もちろん学校で誰かが使用した威力や制御。その魔法と比較して遜色がない。
なぜか記憶にある炎より青く鮮明に映えた。想像できる温度と火力の違いかな。

「うーん。正しくテンプレだよね」戦慄する。ただの初級魔法ファイアボール。
この世界は貴族としての魔法運用が義務だ。学校では評価されなかった卒業生。

 それなりに役立つ科学の知識が芽生えた。うまく活用して連動させればいい。
チートと呼べない技術。状況に応じて記憶が利用できれば攻撃力はアップする。

 モンスター相手に戦闘するダンジョン。S級冒険者を目指す未来は悪くない。
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