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第三章 世界の果てと見えない未来図。

第四十五話 世界の夜明けと共に(6)

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「エーの友達。相談されたからお手伝い」ココの説明も一瞬だ。
その一言でおわりかとこちらも驚く。ココは隠し事ができない。

 ココにとっては社会で頼れる存在。唯一無二の相手が永依だ。
三人同居で世話になる身でも永依は別。絶対の領域なんだろう。

「ほんとにゴメンナサイ。ココちゃん以外を頼れなかったから。
そんな状況だったわたしが悪いの」真珠の涙をうかべるサクラ。

 サクラは誰が見ても絶対に女の子。成人男性を想像できない。

「謝罪はいらないから。簡潔でわかりやすい説明だけでいいの」
 偽りのない本心は理解している。それでも困るカナメ先輩だ。


「はい。母が大陸の奥地。少数民族の出身です。食うにも困って
スカウトされたからスパイ活動……日本語学んですぐ。送られて
父に出会った。結婚してから放置されたんだ。それが突然……」

 あぁなるほど腑におちた。スパイを配置する大陸。組織として
『いつかなにかで』役だつ可能性がある。草として潜伏スパイ。

 スパイの子がダンジョン攻略メンバー。知己に……なったと。


「なるほど母を助けたい一心かな。ココも理解して捕らえられた
振りをした。あぁピアスの一件か。中身を理解していたからね」
 右差し指を振ると口端に触れる。同時にカナメ先輩が笑った。

 つまり……救援ありきなんだ。誘拐された芝居なんだろうし。
想定外は敵の増援。極寒期にホバークラフトで歩兵が合流した。

 大陸から派遣された敵の増援が……精鋭じゃなくてよかった。

 ホバークラフトで外海逃走。本艦と合流してから東シナ海……
海自や保安庁にも露見しない。理由は……もしかして原潜かな?

 それに大陸製の潜水艦は騒音。見つかりやすいし性能も悪い。
不法侵入も旧型のホバークラフト船だ。こちらが驚いたぐらい。


「あれだ。国家が全面的に関与しないから外交ルート。確認?」
 瞬時にひらめくとカナメ先輩もスマホを握る。即座の対応だ。

「ケージの推察どおりかも。このあと閣下に直接相談するわね。
結論まで適当にして」言葉を残した先輩。どこかしらに消えた。

「それでサクラちゃん。これからどうするの。仕事と暮らし?」
 なんとなく気になったんだよ。かなりマジメな質問になった。

「そうですね。これから母を一人にもできません。お店の近く。
お部屋を探します」サクラちゃんらしい。マジメな即答だった。

「そだね。美里さんと鈴音さんなら一緒に考えてくれるからさ」
 こちらに頭をさげながら微笑むサクラちゃん。男に見えない。


 その瞬間だった。それまで暗闇。星空のはるか先が水平線だ。

 一筋の白い線。走るのと同時だった。ゆっくり空と海の狭間。
光源が顔をのぞかせた。闇夜の空。ごくわずかな侵略を始める。

 厳かな夜明けだった。その美しさに感動して見つめる女性陣。
隣ではバイストン・ウェル召喚されないかな。おバカな妄想だ。

『海と陸の狭間にあり輪廻する魂の休息と修練の地』その定義。
著名なアニメの監督だ。生体エネルギーを原動力にする異世界。

 ジョーカーで満足できずにオーラマシンも乗りたい気分だよ。
真実は……フェラリオ。妖精一族に逢いたいだけかもしれない。

 誰も言葉を発することのない沈黙。ただ時間だけが経過する。


 しばらくしてからカナメ先輩が走りよる。同時に語り始めた。

「困った状況になりそうよ。怒り心頭の閣下が直談判するって。
主席を相手しながらステゴロだってさ。本気でもバカらしいわ」

 その場で誰も理解できない。美しい日の出をながめる感動から
大国間の戦争も起こりかねない現状。おかしな事態に変化した。

「閣下って直情タイプだけど本音はね。絶対に見せないからさ」
 事実を語りながら内心でイメージする。平和を愛する閣下だ。

 ルール無用。戦争を望むはずもない。きっと目的は別にある。


「相手の外交ミスだから。明確な証拠まである。言い訳も無用。
今後ダンジョン探索で優位になる。勝算があるからブラッフ?」

 国家を担う公安捜査官だ。そんなカナメ先輩なりの見解かな。

 閣下としても国際情勢。優位な立場なら無茶でもやるだろう。
それが駆け引きだ。手段の一つとして外交。かなり有利になる。

 勝負は始める前決着させる。それが理想と教えてくれた閣下。
教訓を糧にした永依がココを奴隷にした。それが始まりなんだ。

 何かが起こるのか未来は誰にもわからない。それもまた人生。
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