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第二章 現実の社会はさほど甘くない。

第三十六話 バニーちゃんと一緒(15)

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「male! やべぇ速すぎっ。メータ振りきらねぇかな!?」
 性能は本家に勝てない……秒加速100kmが無理。最高速の
500kmも事実上ダメ。それと道路交通法。各種の制約だね。

『ケージさまご安心ください。このジョーカー2000は自衛隊
特殊車両。認証済みです。人身事故なければ問題ありませんね』
 内装は普通。違和感もない。だがしかしオタクはだませない。

「maleさぁリアルのカーナビ。システムってね……三次元。
アニメキャラ投射。勝手にしゃべったりしないのわかるよね?」
 いきなり運転席に着座。全開走行を始めた状況も仕方ないよ。

 だがしかしAIだ。超越する次元じゃん。頭を抱えるだけだ。


 いきなりホンダの倉庫を出発。一般道全力走行のジョーカー。
頭上は九条駅。そのまま中央大通り合流。逆走で突っこんだよ!

「うぉぅ!? やべぇよやべぇよぉっ。おおおおぉぉぉぉっっ」
 運転席に座るだけ。もちろんハンドルなんかも触れてないよ。
アクセル踏んだりブレーキ操作もしない。逆におかしいよねぇ。

 何もできずにうろたえた。なぜか前方から逆走車が迫りくる。
絶妙な位置どり。紙一重の距離感。交わしつづけるジョーカー。

 頭上が阪神高速で走行車線だ。ゆるく右に婉曲しながら正面。
迫る黒いワンボックス。スライド扉をこじあけて少女が現れる。


 ブレザーの制服に小柄。ピンクブロンド髪が揺れる。永依だ。
「エーちゃん! 助けるから。ちょっと待って」運転席で絶叫。

 聴こえたらしい。永依がニヤリと笑う。タイミングを測った。

 フォローは必要ない。助手席ドアが全開になる。同時だった。
永依が跳躍しながら左掌で扉をつかむ。後部席になだれこんだ。

「うぎゃぁ」人間じゃない言葉。あられもない姿の永依が叫ぶ。

 蹴りで衝撃をうけた黒いワンボックス。横転してコンクリート
橋脚に勢いで突撃。火花をあげて停車した。車輪だけが空回る。

 確認のため一瞬だけ振りむいた。目前に赤。うす布が映えた。
もちろん頭を下に転がり足を掲げた永依。下半身が全開じゃん。


「うわぁ」絶叫だった。ほぼ同時だ。前方に双眸を戻した視界。

 衝撃映像だよ。フロントガラスの先に迫りくる車輛。同じ黒い
ワンボックス。そのスライド扉。こじ開けながら顔がのぞいた。

 もちろん白い右耳。屹立する細い体はココ。あたり前だよね。
永依と同じくココもニヤリと笑った。いきなりジャンプしたよ?

 路面に一瞬だけ身体を屈めた。強引な屈伸。こちらに半転だ。

 そこで空高くはねる勢い。三角とびで大跳躍。そこに突進する
ジョーカー。後席から永依。全力で左腕を伸ばして掌を重ねた。

 そのまま重なりあった二人。助手席からココが飛びこんだよ。


「うぎゃぁ」「ぎょえっ」運転席から左腕。限界まで伸ばしても
遅かったらしい。加速したままの二人が後部席まで突っこんだ。

 同じく人間とおもえない絶叫。心配で振り返る視界の色違い。
重なる肢体も映えた。見てはいけない恥ずかしさ。全開下半身。

 ふたたび顔をそらす。脳内は赤と水色。うす布に彩られて……
「ケーちゃん。じっくりと鑑賞したいの? お部屋がいいなぁ」

 からかうような永依。うすく両頬を染めながら制服を整える。

 ココが勢い飛びだした黒いワンボックス。ジョーカーの背後で
傾きながら転がった。スパークして半回転。そのまま停車する。


「male右前方だ。立売堀交番駐車場。とりあえず停まって」
 すでに木津川も通過したよ。ジョーカーは阿波座駅の直前だ。

 視線で確認した立売堀交番。狭い駐車場にジョーカーを誘う。

 交番から警察官は二人組。駐車場にジョーカー。見つめてから
背後で横転するワンボックスを見た。確認しながら駆ける両者。

 ココと永依は救出できた。後部座席。おちついたら一安心だ。
「見たいわけじゃない。そんなことより大丈夫そうで安心した。
なにがあった?」問いかけた。永依の右差し指が下唇に触れる。

「んーココちゃん。初めての教室参加。先生の気づかいかなぁ。
午後から授業さ。自己紹介ばっかよ。早々におわっちゃってね」


 そのまま腕を高く背後まで伸ばす。ゆっくり言葉を追加した。

「南門から帰ろうとしたんだ。阪神高速の高架下かな。チャラい
男たちのナンパ? いきなし声かけられて囲まれたんだよねぇ。
わやくちゃしてたら車。押しこまれたんだ。暴れたらさっき?」

 頬の赤い永依。こちらに視線をあわせてマジメに説明したよ。

「とび降りたら大ケガ。痛いなぁって考えたらケーちゃんでさ。
声が響いてビックリ。かっけぇ車。正義のヒーロー登場じゃん」
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