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第二章 現実の社会はさほど甘くない。

第三十話 バニーちゃんと一緒(9)

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 いきなり来阪……東京から身内が訪れて振りまわされる日々。
そんなこんなの状況で気がつけば暦の変化だ。ビックリしたよ。

 真冬も穏やかな大阪。それでも二月は最も厳しい時期になる。
関西人なら無言でかじる巻きずしとイワシの頭部。節分が近い。

 いつしか始まったバレンタイン。男が愛情とチョコを贈られる
記念日なのか。うるう年を除いて四週と最短日数。如月は寒い。

「ケージっ! 決まったぜ。えらいこと待たされたが納車……」
 なぜか早朝から高テンション。笑う英雄さんに詰めよられた。


 ダイニング定位置でのけぞった。背後から久しぶりの登場だ。
疲労困憊した様子は弁護士の夫婦。嫁で実姉の圭子が叫んだよ。
「ケージおまえが対応しろ。ココちゃんの入学願書で保護者だ」

「えぇっ? 英雄さんが実のオヤジ。戸籍登録おわったじゃん」
 言葉が信じられない。驚愕しながら応じてわけもわからない。

「おまえもバカじゃないか? 本人と同居しない父親だ。保護人
なれるわけない」睡眠不足なんだろう。お怒り顔の圭子さんだ。

「あっ。マジにそーじゃん。ここで住民登録できるのが三人だ」
 圭子の説明。やっと納得できた。理解してから頭を抱えたよ。 


「永依は転入生だ。表むき東京から転校だったからな。出席日数
なんかも問題ない。全中女子空手チャンピオン。下駄はかせた」

 成績めっちゃ極悪でも身元は確かだ。学校も推薦してくれた。
それで問題なかった。書類選考だけで可能だったと理解できる。

 ココは日本語を話せるけどロシア育ち。教育歴のない設定だ。
外見もウサギ。放射能汚染の突然変異種。納得させるしかない。

 略歴の説明と詐術だよね。ごまかし以外できない状況じゃん。

 ほとんど詐欺まがいだ。相手の同情心に訴えかけるしかない。
冷や汗まみれ。綱渡りの人生そればっかりだ。なげくしかない。


 納得できない状況でも騒動の責任者だからさ。子供を生むのは
無理でも親代わり。背中を見せて導く。大事なことを伝えよう。
「オレさ。子供いないのに。なんでマジメにオヤジやってんだ」

「あはは。親の背中を見て子は育つもんだ。お前も結婚準備……
いやぁ本命。女ができる前にたのしい経験できてよかったなぁ」

 鼻で笑う姉が容赦ないね。頭に響くけど仕方ない状況なんだ。
ある意味で自業自得かな。逆らえない性格も流された結果だし。

 いじめられて快楽を得るマゾヒズムじゃない。この……大阪の
片隅で。ひきこもりで平々凡々な毎日。無事にすごしたいだけ。


 ハーレム状態ってなんだ。身内でもない女の子を相手。仲よく
すごした状況なんて短い人生だ。過去を振り返っても一度限り。

 古い住宅街の狭間だ。設置された校舎。門扉と校舎の間にある
中央グラウンド。互いの部活で日々奪いあいだ。高校インハイの
本選をめざしたからさ。ほとんど走りこみと自主練の毎日だよ。

 どこかに問題あったのかもわからない。現代の医学でも原因は
明確じゃないから。確実性がある予防法も確立していない病気。

 現在も早期の発見と治療だよ。病状の進行をくいとめる程度。
国内での罹患数も年間数百人程度だった。そのぐらい運も悪い。


 ただ悪運の強さは本物だ。右の大腿骨に強烈な痛みを感じた。
練習のあとスポーツ障がいでおわらせずに整形外科を受診した。

 整形のレントゲン検査だ。即座に骨肉腫が疑われたんだよね。
 父親は海外に単身赴任中。フリーライターの母も連絡不能だ。

 あてにできない同居の長男。そこで唯一頼りにできる相手だ。
当時は司法研修生で忙しい状況。即座にかけつけた姉の圭子だ。

 同僚で結婚していた英田勝利さん。拉致して来阪すると三日で
すべてを手配した。最後いい捨てるようにして消えた姉の言葉。

「なんも心配もないからな。おまえは病気の治療に専念しろよ」


 あのセリフの格好よさ。間違いなく目標でもあり原点だよね。

 当時は全国的に珍しかった。大阪市内の小児がん拠点病院だ。
個室も用意して家族クレジットカード。託されて放置されたよ。

 理解ができない状況だ。病院を散策して運命と邂逅したんだ。


 中庭で車いすに座り小鳥をあやす姿。ホンモノの天使だった。
天使さまの具現化。象徴的な美しさと儚さ。視線まで全集中だ。

「あれ? あなた新しい患者さんか。はじめましてだよね……」
 そうだよ。その瞬間だった……マジで一目ぼれ。恋に堕ちた。
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