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第二章 現実の社会はさほど甘くない。

第二十八話 バニーちゃんと一緒(7)

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 カウンターに並べられた料理数々。熱々で美味しそうだよね。
バイキング形式で選べるらしい。お箸と皿を両手にして悩んだ。

「閣下からの指示だよ。しばらくはダンジョンお預けだってさ」
 攻略に燃える二人に話す。きょとんとした表情で返答された。

「理由があるなら仕方ない。ダンジョンの攻略はいつかの目標。
ウサギから人間みたいな進化した。その理由がしりたいんだよ」


「ケーちゃん。いまココちゃんって覚えることばっかしじゃん。
ダンジョンの攻略は後回しなんだよ。ぜんぜん問題ないっしょ」

 ココと同居を始めてからだ。永依の意識が感化されたらしい。
見た目と距離の近い二人だ。姉妹か家族に見えないこともない。

 危険性を考えればダンジョン。攻略を急ぐ理由もないけどね。

 世界的な規模で意思統一も必要だろう。自衛隊なら精鋭部隊に
任せるのが正しい。民間人として深入りすべき問題じゃないよ。

 迷宮で生まれたココだ。その近くで暮らす限り否応なく事件に
巻きこまれる。それも間違いなく現実に発生する未来の予測だ。


 この騒動の中心は『始まりの迷宮』だからね。こんなに近くで
誕生した。政治と軍事の最前線。同意義に扱われる場所なんだ。

 行動制限されても守られる。現実的メリットは測りしれない。

 この靭公園を内包する大阪市西区。戒厳令の第一迷宮都市だ。
地方都市の大阪。所属しながら『世界の中心』変容した空間だ。

 現実として映画のタイトルみたいに愛を叫べる場所じゃない。
遥か後世まで歴史の中心として語られる。そんな地域になる話。

「みんな朝早いのねぇ。わたしなんてテレビのお仕事だけかな。
ずっと寝てるわよ。美貌の維持で長時間。睡眠も必要だからね」


 朝からテンション高いコーキさん。身づくろいは揺るがない。
背後にあくび姿の英雄さん。目線が虚ろで動作まで緩慢なんだ。

「ネーちゃんたち本業実務かな? 5階の事務所は夜の遅くまで
バタバタしてたよ」呆れ交じりになった。心配する意味もある。


「取り急ぎココも永依と同じ学園。編入させるため手続きだよ」
 テーブル席に座る英雄さん。こちらを見つめて手短に伝えた。

「書類だけさ。どうにか誤魔化しても見た目と学力の問題です」
 二人の意思は優先させたい。ひとと姿も異なるココだからね。

 屹立する右耳は白い。垂れた左の黒い耳と異色のオッドアイ。
美少女すぎる外見は目立つ依然。問題は隠しようもない美貌だ。

 双眸はサングラス。誤魔化せるとしても屹立する白い右耳だ。
帽子は無理だろう。素肌の透明感も日本人で通用しないからね。
「ケージ。想像豊かにすればいい」なぜか英雄さんが語りだす。


「人間は理知的な生き物だ。たとえ見た目ひとじゃなくてもね。
親しくなければすれ違うぐらいの相手だ。無頓着なものだから」
 立ちあがると同時だ。舞台俳優みたいな挙動。語り口調だよ。

「驚きはするが声をかけることも稀だろうね。コスプレイヤーに
扱われるのさ。信じたくないありえないことは存在しないんだ。
それが現実社会。埋没するための必須行動らしい。原点になる」

 ほんとは小劇団の舞台俳優じゃない。想像させる動作だよね。
おかしな台詞に言葉もでない。だがしかし女王様は鋭いからね。

「あんた賢いけどバカよね。ホラ吹きも大概にしておきなさい」


「なんとなくのニュアンスで伝わるけれど。根本的な認識がね。
自分に無益なら面倒くさいから干渉しない。それがひとなんだ。
大阪は特殊な魔境なんだけど。東京も人間の距離が遠いからね」

 コーキさんの語り口調。その場の全員圧倒されて息をのんだ。
高校時代に右脚を切断した経験則。秘められた意味を理解した。

「ひとは当事者意識がない限り。見えないものにはフタ……ああ
見えていてもしらない。ないものとして扱って関わらないんだ」
 コーキさんも同感らしい。たりない言葉を補足してくれたよ。

「そう。それが意識としてひとの本質。正しくとらえる言葉ね。
よしあしや無頓着じゃない。根本的な問題は面倒くさいからよ」


 おかしな方向まで展開する話題。内容が理解できないのかな。
無言で永依と目線だけあわせたココだ。何かを伝えようとする。
「自分は生まれたばかりで何もしらないよ。わからないからね」

「すこしでも自分にできること。増やすため勉強したいんだよ」
 ココが一瞬とまった。本心のままだろう言葉を紡ぎ始めたね。

「学ぶことには積極的なココだ。傍にいることでおバカな永依も
熱中できる。何か新しい対象を見つけられるのかもしれないね」
 永依を引きあいにしながら笑える方向。話題の転換を試みた。


「ホントいい子たちよねぇ。他者をおもいやれる謙虚さとか……
そうプレゼントだわ。ファッションショーを開催しましょう!」
 突如としてコーキさんが叫んだ言葉を誰も理解できなかった。

 フィッシュオンで迎える未来も非現実。不条理すぎるよね……
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