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第二章 現実の社会はさほど甘くない。

第二十三話 バニーちゃんと一緒(2)

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「わかりやすい説明ならね。フィッシュ全員の男女が逆なんだ」

「お腕みたいに綺麗なお胸……だよね。つくりものってこと?」
 永依が直視するカナメ先輩。スレンダーな身体にくぎづけだ。

「エーちゃんさ。確かにそうなんだけど……論点そこじゃねぇ」
 おバカにあきれる。左掌で顔を押えながらの華麗なツッコみ。


 カナメ先輩とトランスジェンダーもろもろ。しばし黙考する。
正式に性転換症だ。日本語の訳ならトランスセクシュアリズム。

 身体と精神の性別が異なるひと。その総称と状況から少数派に
扱われる。同一性障がいとされて適合手術を要するひとの定義。

 あくまでも持論だけどね。ひとが複数にわかれて争う社会だ。
一夫一妻制の確立には必要だけど。病気や障がいじゃないんだ。

 趣味や性癖でもない。多数派に属さないだけで定義も難しい。


「本物に見える? 女は秘密がつきものだからね。すべてを……
ケージとも見せあった仲だけど。最近は無沙汰してるんだよね」
「えぇっ!?」からかい半分。カナメ先輩に永依がマジ反応だ。

「カナメ先輩も冗談その辺で。永依おバカだから本気にするよ」
「あらケージ。それ大間違い。永依ちゃんも立派にオンナノコ」

「カナメ先輩からかうばっかだからさ。永依もホンキにすんな」
「でもケーちゃん。仲良すぎっしょ」永依が顔を歪めてなげく。

「んーと汗まみれ。部活後お互い裸になってね」説明の瞬間……
おかしな空気を一蹴するようにボカロの女声。もちろん相手は
交換したばかりのひと。警察庁キャリア官僚である美里だった。


「こんにちは佳二です。なにか伝え忘れたことありましたか?」
「いえ別件で。このあと時間ありません?」マジメな声色だね。

「構いません。うちのビルにあるカフェ。モーニング中ですよ」
「了解です。これから向かいますのでゆっくりお待ちください」
 お願いの口調に疑問を抱くが問題ないだろう。軽く了承した。

「んっ。カナメさんちょい待ち」なぜか顔色も赤い永依だけど。
「どした?」マジメな表情だ。カウンターから覗かせた要さん。

「それおかしくねえ? ゴスロリ服のサーちゃん女の子じゃん」
「ん。あぁ見えてサクラちゃん成人男性よ。オトコの娘だから」

「なんでよ! どこどう見てもあーしより年下じゃないかっ?」
「えへっ」両掌で頬を抑えて微笑む姿。中学生の女の子だよね。
確かに遺伝子の謎は深い。奥深さに思春期で悩んだこともある。


 おかしな方向にこだわる永依。性別じゃなく年齢に驚愕した。
出逢った当初から距離の近いサクラ。軽いハグも頻繁なんだよ。

 性別を軽く凌駕する友情。コミュニケーション能力かもなぁ。
「異和感なく百合めいた」関係。そう感じるから不思議だよね。

 正反対だけど先輩は肉体が同性。外見面は異なる関係だから。
 世間とか常識とか正しさとか? 意識しなければ問題ないね。

 納得できないから当初は怒り口調だった永依。サクラを相手に
おバカな話でもりあがる。どうでもよくなり気づけば大爆笑だ。


 先輩と顔を見あわせながらどこかため息交じりにつぶやいた。
「このビル立ちのかないで済みそうですが。お店どうします?」

「ほんとはナイショだけど……あんた。これから政府の関係者に
されるわよ。うちの店も見張りって扱い。実質的な楯かしらね」

 カナメ先輩の表情から本質的な裏面が垣間見えた気もするよ。
「迷惑かけるみたいでスミマセン。ココが爆弾。永依も地雷だ。
あの音声。世界中のひとに届けられた。欲しがる権力者も……」

「靭公園は政府の直轄よ。かなりの範囲治外法権で固められる」
 カランとベル音が鳴った。同時に顔を覗かせた女性は美里だ。


「お待たせしました佳二さん。ところでここってカフェバー……
えっ! なんでさっ? どこか潜入捜査の大喜多先輩よねっ?」
 開口一番おろか入店前からうるさい。絶叫に全員驚かされた。

「あらあらあら。どこかで見たじゃない後輩ちゃん。頭でっかち
娘ちゃんもケージとしりあいだったのね。楽しくて愉快な状況」


「本日正午。内閣総理大臣による緊急事態宣言が発令されます」
 美里の強い言葉だ。カフェにいた全員同時に硬直させられる。

 法務資格いくつかを所持する。メイン業務が不動産の登記だ。
すこしは法律事務所と連携する。関係ないと逃げられないよね。
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