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本編3 始まりのダンジョン入場します

第十八話 始まりの迷宮で邂逅(18)

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「ケージ君。一度も女性とおつきあいしたことないんだってね?
パック飯を食べながら永依ちゃんにチラッとね。噂で聴いたよ」
 ゴージャスな白衣美女。こちらを気にする様子にビックリだ。

「えっ!? また永依のバカちんが。余計なお世話だっつーの。
えとですね。彼氏彼女の事情はアンノさんで……つーか少女漫画
なんですが。昔からなんか長期に男女関係継続しないんですよ」

「告白でおつきあいの流れも高校を辞めてからきっかけないし。
通信制で大卒認定。現状は恋愛も難しい。出逢いがありません」


 マジな半生録を苦笑しながら伝える情けなさ。不思議なことに
感銘したらしい白衣の美女。潤んだ眼差しで自己紹介スタート。

「アタシは防衛医大卒。看護師で三尉。御手洗鈴音二十五歳よ。
現時点の所属は微妙だけど合同庁舎だから。デートしましょう」

 明るいリップクリームを塗る弓なりの唇。細い指で誘われた。

「それにケージ君さぁ。幻の高校記録が9秒台だっけ? 50m
走り終えてから奥歯噛んで加速装置。9秒台でちゃったってさ」
「それ。ネタ元……多分ネーちゃん。永依に色々バラしたんだ」


「実際単なる計測ミス。非公認どころか協会もガン無視ですよ。
結局そのまま病気で走れなくなったから永遠に未計測ですよね」

 黒歴史を暴露された。苦笑いしつつも実情を披露するだけだ。

「ふーん。カッコいい逸話だね。あっちのジョーくんみたいな。
真っ白に燃え尽きたりサイボーグ戦士に改造されなくて正解よ」

 右目でウインク飛ばしてネタ振りだ。あざとい姿の鈴音さん。
「鈴音さんって大昔のネタ。ホント都合よくしってますよねー」


「アタシだけじゃないよ? そっちの警察官僚さんもオタク度が
メッチャ高いし」なぜかキラリと瞳が輝いた。美里に丸投げだ。

「そういや自分で葛城ミサトさんのネタ。振ってましたっけ?」
 相手から率先してアニメの話題だったよ。理由も謎のままだ。

「まぁ。薄い本とBLすこし学生時代に嗜んだ。その程度だよ」
 また頬を染めながらの暴露。黒歴史なのに素直な美里さんだ。

「それメチャクチャ。限界オタクっすよ。マジっすかすんげぇ」


「さすがに自分で描いたりサークル活動は経験ない。年末お盆も
数回訪れただけね。その程度のゆるいオタク」こちらの驚きにも
掌を左右に振りながら否定する美里さん。相応に重度のオタク。

「ふーん。アタシは百合BLもOK。サークル活動経験ありよ。
おつきあいが前提ならお試しホテルぐらい。いっちゃうかなぁ」

「ケージ君イケてるし」肩にしなだれかかる動きの鈴音さんだ。

 対抗心で左肩に手をなでるようにおく。頬を寄せた美里さん。
「そんなのダメ。わたしのほうが先に佳二くんと仲良くなった」


 苦笑しながら両方の腕。しがみついた酔っ払い美女を眺める。
ちょっと待って。いやいやいやマジ。信じられない状況じゃん。

 過去にモテた試しがない。ハーレムの状態になる理由もない。
男は人生何度かモテ期がくる。確かに定番の漫画ネタだけどさ。

 姪っ子の永依が奇妙な戯言を叫んだ。閣下も悪ノリして適当な
流れで相槌された。初対面の自衛隊看護師と警察官僚ハーレム?

『もしやこのまま死んだり異世界転生できたりしないのかな?』

 あれはトラックに引かれてからだ。なぜか神様からチート能力
授けられて異世界転生してモテモテ状態。お約束の展開だよね。


「うぃっしゅ。これでココちゃんの完全勝利で決定! あーしの
敵討ちありがと」入口傍のテーブル。腕相撲に興じる若者たち。

 なぜか永依より年長者の集いだ。まとめ役をやりながら叫ぶ。

 ココの能力。迷宮を創造した誰かさんが授けた異能の上昇だ。
普通の人間が叶うはずもない。自衛官たちを一蹴したんだろう。

「あぁケーちゃんひでぇ。あーしとココちゃんガン無視じゃん。
男好きエロい看護婦と頭でっかち警官。鼻のばしちゃダメしょ」

 傍に永依が駆けよると隣の美女から無理くり。引き離された。

「あーら。若さしか取り柄のないギャル。色気と頭脳まで鍛える
大人のオンナに勝てるはずもないじゃん。アーッハッハッハッ」


「すげぇ。モノホン悪い魔女じゃん」永依の表情がこわばった。

 修羅場かキャットファイト……漫才みたいな状況なんだけど。
あきらめて視線を宙に投げる。なにもできない哀しい虚しさに。
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